特集34第4,5章

<目次>

第1章 改訂の概要と特徴、WGで何が問題になったか? 

第2章 CKD-MBDの診断:骨(CHAPTER 3.2)

第3章 CKD-MBDの治療:高リン血症の治療と血清Ca濃度の維持(CHAPTER 4.1)

第4章 CKD-MBDの治療:異常PTH濃度の治療(CHAPTER 4.2)

第5章 JSDTガイドラインとの整合性

4.2.1: 透析療法をおこなっていないCKDステージG3a-G5患者において、
適正なPTH濃度は不明である。しかしながら、intact PTH濃度が進行性に上昇したり、そのアッセイ法での正常上限を持続的に超えたりしている場合は、介入可能な因子、すなわち高リン血症、低Ca血症、リンの過剰摂取、ビタミンD欠乏などを評価することが望ましい(2C)。

2009年版KDIGOガイドラインでは,CKDステージG3-G5において至適と考えられるPTH濃度は明らかでないとされていた。その後も,保存期の至適PTH濃度に関する新たなエビデンスはなかったことから,今回のガイドライン改定で至適PTH濃度に関する条文は変更されないこととなった。

保存期CKDにおける至適PTH濃度は明らかでないものの,正常上限値を超える場合は,前版ガイドラインと同様,今回の改定ガイドラインでもその要因となる介入可能な因子を評価することが望ましいとされた。但し,保存期CKDにおけるPTH上昇は,恒常性を維持するための妥当な反応でもあることから,今回の改定ガイドラインでは,前版ガイドラインと異なり,単回のPTH上昇ではなく,PTH濃度が進行性に上昇したり,持続的に高値を示したりする場合に,その要因を検索するよう変更がなされた。

PTH上昇の要因となる因子としては,前版ガイドラインでも言及されたビタミンD不足,低カルシウム血症,高リン血症が今回のガイドラインでも取り上げられた。ビタミンD補充に関しては,CKDステージG2-G4の患者において25(OH)D濃度の上昇とともにPTH濃度が有意に低下したことが報告されている1)。リン吸着薬に関しては,3報のRCTの結果が報告されている。2報のRCTでは,セベラマー塩酸塩,セベラマー炭酸塩投与群において,プラセボ群と比較しPTH濃度に変化がなかったことが報告されている2,3)。もう1報のRCTでは,酢酸カルシウム,セベラマー炭酸塩,ランタン炭酸塩からなるリン吸着薬治療群において,プラセボ群と比較しPTH上昇が抑えられたことが報告されている4)

さらに今回の改定では,PTH上昇の要因となる因子としてリンの過剰摂取が取り上げられた。リンの過剰摂取は必ずしも高リン血症をきたさないが,PTH濃度は上昇することが知られている。食物,添加物からのリン摂取は介入可能な因子であるが,その評価法の確立が今後の課題である。

4.2.2: 透析療法をおこなっていないCKDステージG3a-G5患者において、カルシトリオールやビタミンDアナログは、ルーチンには投与しないことが望ましい(2C)。カルシトリオールおよびビタミンDアナログを、重症で進行性の副甲状腺機能亢進症を有するCKDステージG4-G5患者のために準備することは妥当である(グレードなし)。小児においては、年齢相応の血清Ca濃度に維持する上で、カルシトリオールやビタミンDアナログの投与を考慮しても良い(グレードなし)。

2009年版ガイドラインでは,CKDステージG3-G5においてPTH濃度が進行性に上昇する場合は活性型ビタミンD製剤の投与を行うことが記載されていた。これは,保存期CKDにおいて活性型ビタミンD製剤がPTH分泌を抑制し,骨組織所見を改善するという報告に基づくものであったが,骨折や心血管イベントなどハードアウトカムへの効果を根拠とするものではなかった。また活性型ビタミンD製剤を使用する際は高カルシウム血症に注意が必要であるが,この点は解説の中で言及されるのみであり,当時は重大な懸念として認識はされていなかった。

2009年版ガイドラインの後,保存期CKD患者における活性型ビタミンD製剤の効果に関して2つのRCT(PRIMO試験,OPERA試験)の結果が報告されている5,6)。ともに左心肥大への影響を主要評価項目とする試験であったが,両試験とも有意な効果は示されず,さらに高頻度に高カルシウム血症が起こったことが報告された。近年のメタアナリシスにおいても,活性型ビタミンD製剤は高カルシウム血症のリスクとなることが示されている7,8)

すなわち,保存期CKD 患者に対する活性型ビタミンD製剤の投与は,PTH分泌を抑制し,骨組織所見を改善するものの,患者予後への効果は明らかではなく,高カルシウム血症の要因となる。保存期CKDにおけるPTH上昇は,恒常性を維持するための妥当な反応でもあることから,今回の改訂ガイドラインでは,保存期CKD 患者において活性型ビタミンD製剤はルーチンには使用しないことが望ましいとされた。但し,CKDステージG4-G5で重度,進行性の二次性副甲状腺機能亢進症を有する場合は,活性型ビタミンD製剤の使用を考慮して良いものとされた。

活性型ビタミンD製剤には,生体内で合成されるカルシトリオールの他,パリカルシトールなどのビタミンDアナログがあるが,保存期CKD 患者におけるPTH抑制効果や高カルシウム血症のリスクに関して,両剤に差異はなかったことが報告されている9,10)。天然型ビタミンDは,保存期CKDにおいて高カルシウム血症をきたすことなくPTH濃度を低下させることが可能であるが,活性型ビタミンD製剤との優位性に関して,ガイドラインの基準を満たす十分なエビデンスはないとされた。さらに近年,徐放型の25(OH)D製剤が開発され,改定ガイドラインのエビデンスレビュー後に発表されたRCTでは,本剤が高カルシウム血症をきたすことなくPTH濃度を低下したことが示されている11)。しかし,ハードアウトカムへの効果は明らかでないことから,改訂後のガイドライン条文を修正する必要性はないものと判断された。

以上の記載はすべて成人に関するものであるが,小児でもPTH上昇は骨量低下や血管石灰化と関連することが知られている。さらに,小児では骨の成長のためカルシウムの需要が高まっていることから,年齢に見合った血清カルシウム濃度を維持するためにも,活性型ビタミンD製剤の投与を考慮して良いものとされた。

4.2.3. CKDステージ5D患者において、iPTH濃度をそのアッセイ法の正常上限値の2倍から9倍に維持するのが望ましい(2C)。iPTH濃度がこの範囲内でどちらかの方向に著明に変化した場合、この範囲外への逸脱を防ぐために治療の開始もしくは変更を行うことが望ましい。

2009年版ガイドラインでは,観察研究における死亡リスクとの関連性に基づき,透析患者におけるPTH濃度は正常上限の2倍から9倍とされていた。しかし,PTH濃度への介入がアウトカムに及ぼす影響に関するエビデンスはなかったことから,推奨の強さや根拠は弱いものとされていた。その後,EVOLVE試験の結果が発表され15),サブ解析でPTH濃度への介入が予後に及ぼす効果が限定的ながらも示されたが,主解析の結果は有意ではなかったことから,今回のガイドライン改定でこの条文は据え置きとなった。

4.2.4: CKDステージG5D患者においてPTH抑制療法が必要となった場合、カルシミメティクス、カルシトリオール、ビタミンDアナログのいずれか、またはカルシミメティクスにカルシトリオールまたはビタミンDアナログを併用することが望ましい(2B)。

透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症の治療手段としては,2009年版ガイドラインの後,シナカルセト塩酸塩に関して新たなエビデンスが登場している。最も重要なエビデンスはEVOLVE試験から出されたデータであり,今回のガイドライン改訂会議でもその解釈に多くの時間が費やされた。

EVOLVE試験は,二次性副甲状腺機能亢進症を有する血液透析患者3,883名を対象に,シナカルセト塩酸塩が心血管イベント発症のリスク低下に及ぼす影響を検証することを目的に実施された試験である12)。主要評価項目は死亡,および心筋梗塞,心不全,末梢血管疾患,不安定狭心症による入院からなる複合エンドポイントとされた。主解析の結果,主要評価項目に関してシナカルセト塩酸塩群ではプラセボ群と比較し7%のリスク低下が認められたが,統計学的に有意ではなかった。しかしEVOLVE試験には,両群間の患者背景の違い,高い脱落率,脱落者における市販のシナカルセト塩酸塩の使用などの問題点があり,これらの問題点を考慮したサブ解析では,シナカルセト塩酸塩により心血管イベントのリスクが有意に低減したことが示されている。またシナカルセト塩酸塩の効果には年齢と交互作用があることも示され,65歳以上の症例ではシナカルセト塩酸塩による心血管イベントのリスク低減効果がより強く認められることが報告されている13)

EVOLVE試験は,さまざまな後付け解析もなされており,重度の治療抵抗性二次性副甲状腺機能亢進症(intact PTH 1000 pg/ml以上かつ血清Ca値10.5 mg/dl以上,あるいは副甲状腺摘出術の実施)の発生がシナカルセト塩酸塩により有意に抑制されたことが報告されている14)。骨折に対する効果も検討されており,やはり主解析では有意な結果は示されなかったものの,患者背景の違いを調整したサブ解析ではシナカルセト塩酸塩による有意な骨折リスクの低下が示されている15)

2009年版ガイドラインの後,EVOLVE試験の他にもシナカルセト塩酸塩に関するさまざまな臨床試験が行われており,シナカルセト塩酸塩と低用量活性型ビタミンD製剤の併用療法により,従来治療と比較し,より良好な二次性副甲状腺機能亢進症の管理が得られたこと16),volumeスコアで評価される冠動脈石灰化の進展が有意に抑制されたこと17)が報告されている。PARADIGM試験では,活性型ビタミンD製剤とシナカルセト塩酸塩の単剤としての効果が比較され,PTH降下作用に関しては両薬剤の効果は同等であったことが示されている18)。またシナカルセト塩酸塩による治療前後の骨生検組織を比較したBONAFIDE試験では,シナカルセト塩酸塩により高回転型骨病変が改善したことが示されている19

以上の通り,前版ガイドラインの後,シナカルセト塩酸塩に関するさまざまなエビデンスが発表されたが,シナカルセト塩酸塩を二次性副甲状腺機能亢進症の治療薬として第一選択とするかどうかに関して,Work Groupの意見は二分された。一つの意見は,EVOLVE試験の主解析で有意な結果が示されなかったことを重視するものである。もう一つの意見は,活性型ビタミンD製剤にはハードアウトカムに関するエビデンスがないことから,サブ解析であってもシナカルセト塩酸塩に有意な効果が示されたことは重視すべきというものである。このようにWork Groupでシナカルセト塩酸塩の序列に関してコンセンサスが得られなかったことから,またシナカルセト塩酸塩に伴う薬剤費の問題も考慮され,改訂ガイドラインではシナカルセト塩酸塩と活性型ビタミンD製剤は同列に扱われ,条文ではアルファベット順にシナカルセト塩酸塩,カルシトリオール,ビタミンDアナログと記載されることになった。小児の場合は,骨の成長のためカルシウムの需要が高まっていることから,シナカルセト塩酸塩を使用する際は低カルシウム血症に特に注意するよう解説で記載された。

シナカルセト塩酸塩に加え,近年,静注製剤のカルシウム受容体作動薬であるエテルカルセチド塩酸塩が開発され,改定ガイドラインのエビデンスレビュー後に発表されたRCTでその効果が発表されている20,21)。しかし,ハードアウトカムへの効果は明らかでないことから,改定後のガイドライン条文を修正する必要性はないものと判断された。

4.2.5. 内科的薬物療法が成功しなかった重症の副甲状腺機能亢進症を有するCKDステージ3-5Dの患者に対しては副甲状腺摘出術が望ましい(2B)。

2009年版ガイドラインの後,ガイドラインの基準を満たす新たなエビデンスはないものの,今回のガイドライン改訂でも,内科的治療に抵抗性を示す重度の二次性副甲状腺機能亢進症を有する場合は,副甲状腺摘出術を行うことが望ましいとされた。

文献

  1. Oksa A, Spustova V, Krivosikova Z, et al. Effects of long-term cholecalciferol supplementation on mineral metabolism and calciotropic hormones in chronic kidney disease. Kidney Blood Press Res. 2008;31:322–329.
  2. Chue CD, Townend JN, Moody WE, et al. Cardiovascular effects of sevelamer in stage 3 CKD. J Am Soc Nephrol. 2013;24:842–852.
  3. Lemos MM, Watanabe R, Carvalho AB, et al. Effect of rosuvastatin and sevelamer on the progression of coronary artery calcification in chronic kidney disease: a pilot study. Clin Nephrol. 2013;80:1–8.
  4. Block GA, Wheeler DC, Persky MS, et al. Effects of phosphate binders in moderate CKD. J Am Soc Nephrol. 2012;23:1407–1415.
  5. Thadhani R, Appelbaum E, Pritchett Y, et al. Vitamin D therapy and cardiac structure and function in patients with chronic kidney disease: the PRIMO randomized controlled trial. JAMA. 2012;307:674–684.
  6. Wang AY, Fang F, Chan J, et al. Effect of paricalcitol on left ventricular mass and function in CKD–the OPERA trial. J Am Soc Nephrol. 2014;25:175–186.
  7. Li XH, Feng L, Yang ZH, et al. Effect of active vitamin D on cardiovascular outcomes in predialysis chronic kidney diseases: a systematic review and meta-analysis. Nephrology (Carlton). 2015;20: 706–714.
  8. Xu L, Wan X, Huang Z, et al. Impact of vitamin D on chronic kidney diseases in non-dialysis patients: a meta-analysis of randomized controlled trials. PLoS One. 2013;8:e61387.
  9. Coyne DW, Goldberg S, Faber M, et al. A randomized multicenter trial of paricalcitol versus calcitriol for secondary hyperparathyroidism in stages 3-4 CKD. Clin J Am Soc Nephrol. 2014;9:1620–1626.
  10. Riccio E, Sabbatini M, Bruzzese D, et al. Effect of paricalcitol vs calcitriol on hemoglobin levels in chronic kidney disease patients: a randomized trial. PLoS One. 2015;10:e0118174.
  11. Sprague SM, Crawford PW, Melnick JZ, et al. Use of extended-release calcifediol to treat secondary hyperparathyroidism in stages 3 and 4 chronic kidney disease. Am J Nephrol. 2016;44:316–325.
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  14. Parfrey PS, Chertow GM, Block GA, et al. The clinical course of treated hyperparathyroidism among patients receiving hemodialysis and the effect of cinacalcet: the EVOLVE trial. J Clin Endocrinol Metab. 2013;98: 4834–4844.
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第5章 JSDTガイドラインとの整合性 

濱野高行 大阪大学大学院医学研究科腎疾患統合医療学准教授

KDIGOのガイドラインとJSDTガイドラインとの違いを中心にまとめてみたい。

  1. 日本のPTHの目標値とは大きく違う点は前回と同じ。

intact PTH (iPTH)濃度の目標管理域は正常上限値の2倍から9倍という旧ガイドラインのそれが継承されている。これはたとえばiPTH濃度の正常域上限が60 pg/mLであれば120~540 pg/mLとなり、日本のガイドラインの60-240 pg/mLに比し著しく高く映るかもしれない。世界レベルでみると、iPTHには多くのアッセイがあり、必然的に目標値を広くせざるを得ないが、日本の場合は透析クリニックではエクルーシス法がほとんどであり、アッセイの違いはそれほど問題にはならない。またPTHの骨感受性は人種差が少なくとも白人と黒人では確認されており、黄色人種である日本人が欧米人と違っていて不思議ではない。ただ、日本のガイドラインでは3年間の生命予後では60-300 pg/mLで一番生存率が良く、このデータはcalcimimeticsがほとんど使われていなかった時期の解析である。今後は再度近年のデータで解析しなおし、改訂する必要があるかもしれない。日本のMBD-5D研究では、Cinacalcetによる心血管イベントによる入院と死亡の抑制はbaselineのiPTH>300 pg/mLで認められたことは、300 pg/mL以上で管理することが日本の透析患者にとっては好ましくないことを示唆する。その意味では60-240 pg/mLの日本のガイドラインは、KDIGOの目標値に比べかなり低いといえど、それなりに妥当性があると筆者は考える。

  • 骨塩量の測定は日本では既によくされており、日本に歩み寄ったとも言える。

2009年版KDIGOガイドラインでは、骨折既往のある患者と既往のない患者では骨密度に差がなかったことから、骨密度の測定は推奨されていなかった。しかし、日本の研究をはじめとする前向きコホート研究の結果から保存期においても、透析期においても低骨密度が骨折を予測したことから大幅に変更がなされた。ただし、条件がついている。骨密度の測定が治療決定に影響を与える場合には、という条件である。日本では、この条件の有無にかかわらず昔から透析患者で骨密度が測定されていたことから、日本に歩み寄ったとも言える。ただ、低骨密度の時にいかなる治療をどのようなアルゴリズムで選択するのか、に関する情報は与えられていない。また日本ではMD法などDEXA以外の測定もまだされている病院もある。これらの価値を今後日本で見ていく必要があろう。

  • を測定することが前提となっている。

保存期のPTHの目標値は不明としながらも、かなり高い、あるいは上昇しつづける場合、補正することができる高リン血症、低Ca血症、リン摂取過剰に加えてビタミンD欠乏の有無を調べるように書かれている。ここでいうビタミンD欠乏は25(OH)Dの測定をしないと不明である。欠乏の基準は15ng/mLが一般的によく使われているが、今回のガイドラインでは特段明示されていない。また、移植後12ヶ月以内の骨代謝治療薬は、血清カルシウム、リン、PTH、ALPに加え、25(OH)Dに基づくべき、ときっちり明示されている。しかし、本邦では25(OH)Dの測定の適応はビタミンD欠乏性くる病若しくはビタミンD欠乏性骨軟化症の診断時又はそれらの疾患に対する治療中に限られている。これらの記述は欧米では活性型ビタミンDではなく、ergocalciferol, cholecalciferolといった天然型ビタミンDが使えることが前提となっているが、日本では保険適応はなく、サプリメントの位置づけである。また米国ではFDAがOPKO社の徐放型ビタミンD製剤の二次性副甲状腺機能亢進症の適応を認めたが、日本ではまだ上市される予定はない。これらを使用できない日本では、活性型ビタミンD製剤に頼らざるを得ないが、25(OH)D欠乏があるときに、活性型ビタミンDだけで病態を治療できるかどうかに関しては議論がある。たとえば、極度の骨軟化症に活性型ビタミンDを投与するだけでは骨病変は改善せず、痛みや臨床検査値は天然型ビタミンDを補充してはじめて改善することも報告されている。日本において、代謝性骨疾患における25(OH)D測定の薬事承認はされたばかりであるが、まだ保険承認には至っていない。つまり日常臨床では測定できない。ゆくゆく保険承認されれば、日本でのCKD-MBD治療は画期的に変わることになるだろう。

  • 検査値管理の優先順位。

日本のガイドラインでは、血清リン濃度 血清補正 Ca濃度を管理目標値内に維持することを 血清 PTH 濃度を管理目標値内に維持することより優先する、と書かれている。つまり、まずは血清リン濃度、その次に血清Ca濃度、それらが管理できてからはじめてPTH濃度の管理をすることが謳われた。これは、リン、CaおよびPTH濃度の生命予後との関連の強さ(effect sizeの大きさ)に基づき、さらには、リンだけ、Caだけ、PTHだけが管理目標値を満たしたときのeffect sizeの比較に基づいている。確かに、血清リン濃度、Ca濃度が満たされてからPTH管理へ、という流れは、活性型ビタミンD製剤の使用を念頭に置く場合には、好ましい順番であろう。すでにCaもPTHも管理目標値よりも高いときにビタミンD製剤を使えば、高Ca血症が悪化するだけだからだ。しかし、この優先順位は、ことシナカルセト塩酸塩の使用の際には当てはまらない。CaもリンもPTHも高い時に、シナカルセトはCaもリンも下げることができるからである。つまりこの際には、シナカルセトはPTHコントロール薬であるが故に、PTH管理を優先したことに他ならないからである。もっとも、このあたりの例外は、血清リン濃度を横軸、血清補正Ca濃度を縦軸としたいわゆる曼荼羅図で、シナカルセトの記載もあり、シナカルセトの使用がリン、カルシウムの管理のために、ということも記載されており補完できよう。

ではKDIGOガイドラインではどうかというと、明確な優先順位は規定されていない。ただ一回の測定値に基づくのではなく、連続的に血清カルシウム、リン、PTH濃度の変化を一緒に考えることが重視されている。一つの検査値を動かすと他の検査値が動くことが重要であるということは、”the complexity and interaction of CKD-MBD laboratory parameters”との表現に見てとることができる。

  • 血清カルシウム濃度の管理目標。

かつてのKDIGOガイドラインでは、血清Ca濃度は正常範囲に保つことが推奨されていたが、改訂されたKDIGOガイドラインにおいて、この表現は保存期、透析期にかかわらず高Ca血症を避けるべきであるという表現に変更されている。そして、解説において、軽度あるいは無症候性の低Ca血症は、とくにcalcimimeticsの使用中においては、不適切なカルシウム負荷を避けるために許容するとも書かれている。JSDTのガイドラインは、むしろかつてのガイドラインに近い。つまり、血清補正 Ca濃度の目標値として8.4~10.0mg/dLが提示されている。高Ca血症に関しては、血清補正 Ca濃度 10.5mg/dL以上では速やかに治療の変更を考慮すると書かれているが、低Ca血症を容認するとは書かれていない。現在、日本では世界に先駆けてetelcalcetideが使われているが、この薬剤を改訂KDIGOガイドラインに基づいて軽度の低Ca血症を許容しながら使うのは個人的に危険と考える。その理由は、維持期においてPTH非依存性に血清Ca濃度が急激にさがるエピソードを経験しているからである。この薬剤を使う際には、せめて正常下限は最低でも維持していないと、不測の低Ca血症に対応できなくなり、安全域がないことになってしまう。

  • 骨生検に関する記述。

KDIGO改訂ガイドラインでは、腎性骨症のタイプを知ることで治療方針が決定されるときには骨生検を実施するのは妥当であると書かれている。解説では、この改訂は、CKDを有する低骨塩量や骨折リスクの高い患者で、一般の骨粗鬆症治療薬を使って治療することが増えたことに基づいているとも書かれている。しかし解説では、骨生検を実施できないことが、骨吸収阻害薬を患者に投与しないでおくことを正当化できない、とも書かれている。2009年版ガイドラインの、骨吸収阻害薬を投与するまえに骨生検をするべきである、というスタンスからは明らかに後退している。この文脈から考えると、骨生検を実施してPTHが目標範囲にあるにも関わらず骨吸収が亢進している場合には、骨吸収阻害薬を投与することは妥当であるが、骨生検ができなくても活性化した破骨細胞が多いことが高率に予想されるときには、骨吸収阻害薬を投与することが妥当とも読める。では骨吸収阻害薬を投与しても良い程、破骨細胞が活性化しているかどうかをいかに予想すればいいのか、ということに関しては、ガイドラインは答えを与えていない。これに答えるだけのエビデンスがないからである。現在、私が知っている透析施設でもビスホスホネートやデノスマブを使う施設が増えている。しかしながら、まだこれらの薬剤をリスクの高い透析患者に無前提に使うほどには、骨折抑制のエビデンスが十分にないこと、さらにはそれぞれの薬剤が低回転骨、低Ca血症をもたらすリスクが高いこともガイドラインの解説で述べられている。よって使うにしても慎重に使うべきである、という表現がなされている。

これらの骨生検に関する記述は、「侵襲的検査である骨生検を繰り返して頻回に施行することは現実的でない。したがって、骨生検は透析患者の日常診療の指針とならない」という日本のガイドラインの解説にある意味で通じているのかもしれない。その意味では、骨代謝マーカーと薬剤の骨折抑制効果を直接結びつけるような臨床研究が今後より必要になると考えられる。