
D. 食事中ナトリウム制限の実践と問題点
1. ナトリウム制限の目的
ナトリウム制限の目的
ポイント➡CKD患者において、塩分摂取が減少しすぎた場合には、ネフロン数の減少により低下している塩分再吸収能の促進が適応できず、塩分の喪失から脱水を招き、腎機能が低下する。 |
CKDでは、しばしば体液の恒常性維持機構が破綻しており、ナトリウムが蓄積しやすい状態を呈する。このことが、体液過剰に伴う高血圧の発症および、ナトリウムによる、臓器障害をも惹起するので、ナトリウム管理が必要となる。 CKD患者では、ネフロン数の減少に従い、残存ネフロンのナトリウム排泄効率を高めなければ、体内のナトリウム蓄積が生じる。つまり、ネフロン数の減少に対して、各ネフロン当りの再吸収率を低下させて、体内環境の変化に適応している。しかし、このような状態において、ナトリウム(塩分)負荷が起これば、残存ネフロンにおいて適応能力が間に合わず、塩分(ナトリウム)の蓄積、すなわち体液量の増加を招き、浮腫や血圧上昇、心不全などを惹起する。また、 CKD患者において、塩分摂取が減少しすぎた場合には、ネフロン数の減少により低下している塩分再吸収能の促進が適応できず、塩分の喪失から脱水を招き、腎機能が低下する。このような、適応能力の低下により、摂取する食塩を管理することが重要となる。また、糖尿病では、このような残存ネフロンの適応能力がさらに低い事が報告されている。
一方、透析患者では、腎臓の調節能が失われているため、塩分および水分を排泄して恒常性を維持する事ができない。また、食塩・水分の除去が透析によって一定濃度で行なわれ、除去濃度の調節はできない。このため、摂取した塩分により上昇したナトリウムが等張となるまで飲水が継続する。塩分摂取量は、一日の尿中ナトリウム排泄量から推定する精度の高い方法があるが、透析患者ではこの方法は行なえない。これに対して、水分摂取量は、透析間の体重増加にほぼ等しい。透析間の体重増加量は生命予後との関係が報告されているので、食塩制限・水分制限は栄養状態に留意しながら行なう必要がある。
健常者におけるナトリウム推奨量
ポイント➡日本人の食事摂取基準(2015 年版)では、今後 5年間の摂取量の目標値として、成人男性で8 g/日未満、成人女性で 7 g/日未満とした。 |
健常者においては、腎臓におけるナトリウムの再吸収機能によりナトリウム平衡は維持され、ナトリウム欠乏となることはない。ナトリウム摂取量を 0(ゼロ)にした場合の、尿、便、 皮膚、その他から排泄されるナトリウムの総和が不可避損失量であり、摂取されたナトリウムはその大部分が小腸から吸収されるので、不可避損失量を補うと必要量が満たされると考えられている。1989 年のアメリカの栄養所要量では、成人の不可避損失量として 115 mg/日(5 mmol/日)、1991 年のイギリスの食事摂取基準では 69~490 mg/日(3~20 mmol/日) を採用している。我が国においても、成人のナトリウム不可避損失量は 500 mg/日以下で、個人間変動(変動係数 10%)を考慮に入れても約600 mg/日(食塩相当量 1.5 g/日)である。この考え方を根拠に600 mg/日が、成人における男女共通の推定平均必要量とされている(1,2)。ただし、高温環境での労働や運動時の高度発汗では相当量のナトリウムが喪失されることがある。ナトリウムを食事摂取基準に含める意味は、むしろ、過剰摂取による生活習慣病のリスク上昇、 重症化を予防することにある(2)。
日本人の食事摂取基準(2010 年版)では、今後 5 年間の摂取量の目標値として、成人男性で9 g/日未満、成人女性で 7.5 g/日未満とした。その後、国民健康・栄養調査による成人の食塩摂取量は、食塩摂取量が減少傾向にあること、日本を始め各国のガイドラインを考慮すると高血圧の予防、治療のためには 6 g/日未満の食塩摂取量が望ましいと考えられることから、できるだけこの値に近づくことを目標とすべきであると考えられる(2)。
CKDにおけるナトリウム制限食の推奨量とその根拠
ポイント➡血清Naイオン濃度は140mEq/L前後で維持されているため、約8gの食塩を摂取すると1Lの水分が必要となる。したがって、透析間の体重が1kg増えていたら約8gの食塩を摂取していることになる。 |
減塩による降圧効果に加え、減塩が降圧薬の効果を高めることはさまざまな研究で報告されている(3,4,5)。健常人や非CKD患者では、高血圧の発症予防および重症化予防には、ナトリウムの摂取を控え積極的なカリウムの摂取を心がける。高血圧の発症は食塩の過剰摂取が要因であることに加え、CKD患者では、高血圧そのものがCKD発症の原因となりCKDの病態を悪化させ(6)。また、食塩の過剰摂取は、脳卒中や心血管疾患(CVD)の発症および死亡リスクとなる(7)。さらに、CKDステージG5D(透析療法)において、尿量が減少している患者や無尿の患者の場合、ナトリウムの過剰摂取は体重を増加させ、むくみや血圧の上昇、血管内皮細胞の傷害をおこす。1gの塩化ナトリウムは17mEq (17mmol)のナトリウムイオンに相当する。血清ナトリウムイオン濃度は140mEq/L前後で維持されているため、約8g (136 mEq)の食塩を摂取すると約1Lの水分が必要となる。したがって、透析間の体重が1kg増えていたら約8gの食塩を摂取していることになる。とくに、CVDを合併している透析患者では、食塩の摂取管理は生命予後に影響する。したがって、CKDにおけるナトリウム制限の目的は、血圧管理と腎機能低下の防ぎ、脳・心血管疾患の合併症のリスクを回避することである。
CKDに対する食事療法基準における食塩の基準は以下の3点に基づき策定された(表1)(8)。
- 食塩摂取制限による蛋白尿の減少(9)
- 食塩摂取制限による腎機能低下と末期腎不全に対する抑制効果(6)
- 食塩摂取制限による心血管疾患発症抑制と死亡リスクの抑制(7)

尿中ナトリウム排泄量が100 mmol/日(NaCl約5.8g)前後に相当する6g/日未満が食塩の推奨量として適切であると考えられた。ただし、CKDステージG1~G2では、日本人の食事摂取基準2015年版で策定されている食塩目標量(男性8.0g/日未満、女性7.0g/日未満)を目安とし、食塩の過剰摂取に注意するとした(2)。 CKDステージGa3以降では食塩6g/日未満が基準となるが、CKDでは腎のナトリウム保持能力が低下しているため容易に低ナトリウム血症を起こしやすいことから、下限を3g/日とした。
食塩摂取量の減少は、体液量の低下や交感神経活性の抑制を介して、血圧低下や蛋白尿の改善効果を有している。以下の項目において、エビデンスを有する研究が報告されている。1)血圧、微量アルブミン尿と蛋白尿への効果、2)腎機能低下と末期腎不全に対する効果、3)CVD と死亡に対する効果、
等が知られている。とくに、CKDにおいては、食塩摂取量の増加により腎機能低下と末期腎不全へのリスクが増加すると考えられている。
また、血液透析患者には高血圧の合併が多く,またCKDステージG5 であることを考えると,CKD 診療ガイド2012,日本高血圧学会ガイドライン2009に示される一日6 g 未満の食塩摂取を推奨すべきであると考えられる.しかしながら血液透析患者の生理学的な特異性を考えると,一律に一日6 g 未満と設定することが本当に適切か否かを議論する必要がある(10)。しかし現時点では血液透析患者の食塩摂取量に関する議論が不十分であり,一日6 g 未満を一応の推奨値とせざるを得ないが,患者の体格,栄養状態,尿量,身体活動度によっては低栄養や心不全の原因となる危惧もあるため,補足として「尿量,身体活動度,体格,栄養状態,透析間体重増加を考慮して適宜調整する」という項目が記載されている。
ナトリウム制限の負の側面とその克服する方法
ポイント➡CKD患者でも過度な食塩制限を行う患者や食事摂取不足の患者に低ナトリウム血症がみられる。過剰な食塩制限は食欲低下を助長し栄養障害を招きかねない。 |
通常の食生活で、低ナトリウム血症(低血圧、全身倦怠感、頭痛、嘔吐、食欲不振など)になることは腎機能が正常である場合はほとんどない。ただし高度脱水時や慢性的に食事が摂れていない高齢者などは例外であり、CKD患者でも過度な食塩制限を行う患者や食事摂取不足の患者に低ナトリウム血症がみられる。過剰な食塩制限は食欲低下を助長し栄養障害を招きかねない。無味な食事を毎日毎食続けることは、食事への興味を低下させ、味をつけなくても食べることができる食品に偏ってしまう。とくに高齢者には注意しなければならない。
透析患者では、体重増加率と生命予後にU字型の関係がみられる(10)。また、体液量の減少により起立性低血圧をきたしたり、脱水によって腎臓への負担をかけたりする。1型糖尿病を対象にした研究では、尿中ナトリウム排泄50nmol/日(食塩約3g)以下で死亡率が有意に上昇する(11)という結果や一般を対象に食塩摂取量とCVD死亡率との間にJカーブ現象がみられること(12)が報告されている。したがって、過度な食塩制限がなされないよう、食事指導時には食欲状況や活気など臨床診査も考慮する。また、ナトリウムの摂取量と排泄量はほぼ等しいことから、とくにCKDステージG3~G5では、24時間蓄尿を実施し、24時間尿中ナトリウム排泄量から推定食塩摂取量を算出し、確認することができる(当ホームペジ上のアプリで計算できる)。CKDステージ5Dでは、とくに透析導入時の患者や高齢患者で透析間の体重増加が少ない場合に注意する。
患者の性格や状況に応じたアセスメントを実施する。間違った食塩制限を実施している場合は再教育を行う、摂取不足の場合は食事療法自体の緩和など、早期に介入をする。
バランスのとれた健康的なナトリウム制限食
ポイント➡満足できる食塩制限食を続けるためには、おもに主菜で食塩を使い、味付けを一点集中型のメリハリのある内容にする。全体が同じような塩分濃度であると、美味しさが強調されない。 |
CKD食事療法において、食塩の過剰摂取を避けることは第一である。しかし、高食塩食だった食生活が一変し急に減塩生活を続けることは難しい。少しずつ薄味に慣れることが大切だ。主食(ごはんやパン)と主菜(肉や魚、卵などを使ったメイン料理)と副菜、汁物(野菜類やイモ類、きのこ類を使った料理)がそろった食事が理想である。満足できる食塩制限食を続けるためには、おもに主菜で食塩を使い、味付けを一点集中型のメリハリのある内容にする。全体が同じような塩分濃度であると、美味しさが強調されない。
食塩摂取に配慮したバランスのとれた食事を摂るポイントは以下のとおりである。
1)食品に含まれる食塩量を学ぶ。
しょうゆや味噌、ソースなどの調味料以外にも食塩は多く含まれている(写真1、表2)。また、インスタントラーメンなど加工食品や中食にも多く含まれているため、どのような食品に多く含まれているか知っておく必要がある。食品の種類によって食塩量が異なることもある。その他、食パン4枚切り1枚(約90g)には約1.2gの食塩が含まれている。1日2食以上でパン食が続く場合は、食塩摂取が多くなっている可能性がある。パン食は1日1回までとすることが望ましい。


2)計量する習慣をつける。
調味料類の使用では、計量スプーン等を使って回しがけを避ける。とくに、顆粒風味調味料(和風だしなど)は、小さじ1(約4g)に食塩約1.6gが含まれている。調理時に多用する習慣がある場合は、かつおや昆布でとった出汁を使用する。
3)調理上の工夫。
調味料の使い方と調理の工夫を15項目表3に示した。和風料理はしょうゆや塩を使う調理が多いため、和風料理が重なると塩分摂取量も多くなる。また、家庭の味付けを「甘い」と答える場合は、砂糖やみりんの使用量が多いだけではなく、同時に、しょうゆや塩の使用量も多く「甘辛い」味付けになっている可能性がある。全般的な調味料の使用頻度に注意する。表2には各調味料に含まれる食塩量を示した。また出来合いのドレッシングの種類によっても食塩量が異なるのでそれを上手に使うことが必要である。(写真1)
高齢者では、加齢に伴う味覚閾値の上昇もあり、全体的に食塩摂取量が多くなりやすい。食欲や食事摂取量に問題がなければ、好みがちな味噌汁や漬け物の摂取頻度に注意する。
表3.調味料の使い方・調理の工夫
- 調味料は目分量で使用せず、計量スプーンを使用する。
- カツオや昆布で出汁をとり、その風味を生かす。
- 「かける」より「つける」
- 減塩商品を上手に利用する。
- しょう油料理(煮物)ばかりを重ねない。
- 煮物は、しょう油以外の調味料(砂糖やみりん)の使用量も減らす。
- 食事は、濃い味を一品重点とする。
- 煮汁は、一緒に盛りつけない。
- 和風料理は塩分が多くなりやすいため、洋風料理と組み合わせる。
- とろみ(あん)の利用は、薄味でも塩味を保つことができる。
- 酢や香辛料(からし、わさび、黒コショウなど)、マヨネーズ、ドレッシングを利用する。
- 風味をつける(かつお節、しそ、ごま、レモンなどを利用)。
- 新鮮な食材を使い、食材自体の味を楽しむ。
- 漬け物、佃煮類は購入しない(食卓に出さない)。
- 練りもの(ちくわや蒲鉾など)や加工食品、インスタント食品は避ける。
4)外食や中食での注意。
外食は楽しみのひとつである。めん類は汁を残し、つけ汁系を選択する。単品料理や調味汁をたっぷり吸った丼物より定食を選び、汁ものや漬ものは残す。弁当は、漬物は捨て付属のしょうゆやソースは残すなど、食塩摂取量を抑えることはできる。惣菜パンのほとんどで食塩量は多い。栄養成分表示を確認する習慣をつける。惣菜パンよりも、中身がないものやクロワッサン系、蒸しパン系、ジャムや缶詰くだもの使用したパンは比較的食塩量が少ない。制限ばかりを強いるのではなく、外食をする際のメニュー選びについて具体的なアドバイスをおこなう。
5)食品の栄養成分表示を活用する。
多くの食品で、100gあたりや1個、1包装あたりの熱量(エネルギー)、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム(Na)の栄養成分表示がなされている(写真2)。ナトリウム量からその食品に含まれる塩分量を計算することができる。インスタント食品やコンビニエンスストアの弁当や惣菜を購入するときや外食先で活用できる(写真3)。コンビニメニューでは栄養成分表示がなされているのでこれを組み合わせて塩分摂取量を調節する(表4)。




6)指導媒体の工夫。
各施設で食塩量の表や図を指導用媒体として用いていると思われるが、それらの媒体は、体重計や血圧測定場所などの患者が目に付くところへ掲示すると効果がでやすい。
おわりに
CKDおよび透析患者を含め、これまで報告されている食塩制限の利点は、1)血圧の低下効果、2)蛋白尿の減少効果、3)心血管イベントの抑制効果、4)酸化ストレス軽減効果、5)骨粗鬆症、尿路結石、腎癌発症などの抑制効果、など多岐にわたる。ただし、現在得られているエビデンスからは、食塩制限の目的は、尿蛋白と腎機能低下および末期腎不全、 CVDと死亡リスクの抑制であり、そのためには、 6g/日未満の食塩制限が推奨される。また、 3g/日未満の食塩では、死亡と末期腎不全のリスクが高まる。食塩制限は、経時的に摂取量を確認することが重要で、正確な24時間蓄尿検査が望ましい。1日の食塩摂取量の推定式(Tanaka式)など、24時間尿中 Na排泄量を推定する方法があるが、推定値と24時間蓄尿の実測値の間には誤差が大きい場合がある。やはり腎専門施設で食塩制限の指導を受けながら、上述したような、食塩制限食の理解を高める事が重要と考えられる。
文献
- 厚生労働省;平成26年度国民健康栄養調査結果、栄養素等摂取状況調査の結果、20歳以上
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書
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- Hiddo J. Lambers Heerspink, et al. Moderation of dietary sodium potentiates the renal and cardiovascular protective effects of angiotensin receptor blockers. Kidney Int. 2012; 82: 330-7.
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- 森山幸枝:疾患別コンビニ食・外食のオススメポイントと落とし穴 透析患者の場合.NutritionCare.