特集31C章

C. 食事中カリウム制限の実践と問題点

1.  カリウム制限の目的

2.  健常者におけるカリウム推奨量の考え方

3.  CKDにおけるカリウム推奨量とその根拠

4. カリウム制限の負の側面とその克服する方法

5. バランスのとれた健康的なカリウム制限食

カリウム制限の目的

ポイント➡腎機能が低下している患者では、カリウムの排泄障害に加え、アシドーシスの合併やRAAS阻害薬の投与で高カリウム血症になりやすい状態にあり、高カリウム食は危険な食事となる。

カリウムは、細胞内液の主要な陽イオン(K)であり、細胞外液に多いナトリウムイオン(Na)とともに、体液の浸透圧の維持、酸・塩基平衡の調節、血圧の調節、神経や筋肉の興奮伝導などに関与する重要な電解質の一つである。

食事摂取によるカリウムの約90%は、腎臓から尿中に排泄され、残りの10%は、便中に排泄される。血清 K濃度の調節は、各組織への移行と、腎臓皮質集合管からの分泌により調節されている。腎機能が低下した状態では、ネフロン数が減少し、 カリウムイオンを分泌する集合管の数を減少する。これに対して、腎臓においては、ネフロン当りのカリウム分泌と消化管でのカリウム排泄を亢進させることで、適応している。腎不全の状態では、代償機構によって GFR(糸球体濾過量)が、10 mL/分以下になるまでは、通常は高カリウム血症は呈さない。

腎機能が低下している患者では、カリウムの排泄障害に加え、アシドーシスの合併やRAAS阻害薬の投与で高カリウム血症になりやすい状態にあり、高カリウム食は危険な食事となる。高カリウム血症は、手や口のしびれや不整脈の症状がみられ、重篤な場合は心停止の危険がともなう。このように、腎機能が低下した患者に対するカリウム制限の目的は、高カリウム血症を防ぎ、高カリウム血症による合併症のリスクを回避することである。

健常者におけるカリウム推奨量の考え方

ポイント➡WHOは、高血圧予防のための望ましい摂取量を3,510mg/日と提唱している。

現在、日本人の1日のカリウム摂取量は、2,273mg/日(1)(平成26年度国民健康栄養調査結果、20歳以上)であるが、WHOは、高血圧予防のための望ましい摂取量を3,510mg/日(2)と提唱している。カリウムの推奨量(目安)は、以下のように考えられている。成人におけるカリウム不可避損失量(カリウムを摂取しない状態で、汗、糞、皮膚、尿、その他から排出されるカリウムの量を不可避損失量といい、その量は最低限補わなければいけない)の推定値を考慮し、また、過去の出納実験のデータより、カリウムの体内貯蔵量を正常に保ち、血漿及び組織間液の濃度を基準範囲に維持するには 1,600 mg/日を摂取することが望ましいとした報告がある(3)。これらの報告から 1,600 mg/日は安全率を見込んだ平衡維持量と考えることができる(3)。  平成22 年、23 年国民健康・栄養調査の結果における日本人成人のカリウム摂取量の中央値は、男性 2,309 mg/日、女性 2,138 mg/日であった。この値はカリウム平衡を維持するのに十分な 摂取量である。50 歳以上の男性のカリウム摂取量の中央値は約 2,500 mg/日であり、現在の日本人 にとってカリウム摂取量 2,500 mg/日は無理のない摂取量であると考えられる。日本人の食事摂取基準2015年版(3)で策定されている目標量は、男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上が目安量とされている。

CKDにおけるカリウム推奨量とその根拠

ポイント➡ G3bおよび血液透析患者で2,000mg/日以下、G4~G5で1,500 mg/日以下を推奨している。G1~G2では、日本人の食事摂取基準で策定されている目標量(男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上)を目安とする。

CKDにおいては、カリウムの体内蓄積は高カリウム血症を伴い、重篤な場合は心停止の危険がともなう。CKD患者では、 CKDのステージが進むほど高カリウム血症の頻度は、高くなる。また、透析患者の死亡原因において、カリウム中毒/頓死は2.7%4)と報告され、決して少ない数値ではない。CKDに対する食事療法基準におけるカリウムの基準は表1のとおりである5)

カリウム制限の開始時期については以下の3点に基づき策定された。

  1. ①高カリウム血症の合併頻度やリスクはCKDステージG3以降で上昇(6)
  1. eGFR40ml/分/1.73m2以下で著明に高カリウム血症の頻度が上昇(7)
  1. 低カリウム血症が死亡のリスクと関係(8)

上記を考慮し、CKDステージ3aまでは制限せず、G3bで2,000mg/日以下、G4~G5で1,500 mg/日以下を推奨している。とくに、G1~G2では高カリウム血症のリスクが少ないため、カリウム制限をする必要はなく、日本人の食事摂取基準2015年版(3)で策定されている目標量(男性3,000mg/日以上、女性2,600mg/日以上)を目安とする。

Korgaonkar らは、高カリウム血症のみならず低カリウム血症も、死亡リスクを有意に上昇させる事を報告している(8)。CKDステージG3−G5の患者を対象(820例)として前向きに、血清カリウム値との相関を平均2.6年間観察した。その結果、低カリウム血症群では、死亡および末期腎不全のリスクが有意に高かった。一方、高カリウム血症群では、死亡と心血管イベントに対して、有意な危険因子となった(8)。 

CKDステージG5Dでは、保存期からのタンパク質制限の緩和によってカリウムの摂取量も増えることから、日本透析医学会の基準を用い2,000mg/日以下とされた。また、病期(ステージ)別の基準だけでなく、病態に応じた摂取制限が必要と考えられる。糖尿病性腎症患者では、低レニン低アルドステロン症を併発していることが多く、非糖尿病性腎症患者と比べ高カリウム血症のリスクがより高いと考えられる。(表6)

食事療法基準では、CKDステージG3b以降で制限するカリウムの目標量が推奨されているが、血清カリウム値4.0~5.4mEq/Lを目安に患者個々の血清カリウム値を評価し、RAA系阻害薬などの薬剤の副作用や合併症も同時に確認し、適切なカリウム制限を実施するべきである。

カリウム制限の負の側面とその克服する方法

ポイント➡栄養食事指導では、ステージ3b以降の患者に一律カリウム制限を指導するのではなく、血清カリウム値を一時点および経時的に評価したうえで、患者の年齢や食生活・家族背景などをふまえたカリウム制限指導が必要である。

CKD患者では、高カリウム血症を放置することは危険である。一方、低カリウム血症も、脱力感や食欲不振、不整脈や筋肉の麻痺など重度な状態となりうる可能性がある。上述したように、CKD患者の血清カリウム値4.0mEq/L未満は死亡の有意な危険因子であり(8)、透析患者の血清カリウム値5.0mEq/L未満は生命予後不良因子である(9)という報告がある。よって、低カリウム血症も注意が必要である。

腎機能の低下に伴い、CKDステージ3aではタンパク質0.8~1.0g/kg/日、3b以降ではタンパク質0.6~0.8g/kg/日のタンパク質の摂取制限が指導される。前述したように、肉類や魚類にも多くのカリウムが含まれているため、タンパク質の摂取量を抑えることは、同時にカリウムの摂取量を抑えていることになる。タンパク質食品の摂取制限に加え、野菜類やイモ類、果実類を必要以上に制限することは、カリウム以外のビタミンやミネラル、食物繊維の摂取も制限してしまうことになる。

また、現在、透析導入患者の平均年齢は69.0歳、年末患者の平均年齢は67.5歳と高齢透析患者が多くなっている4)。近年、透析施設では、食欲不振が続き、透析量に見合った食事摂取ができないため低カリウム血症になる透析患者が増えている。また、透析導入前の食事制限から緩和された食事管理に移行できないため、食事摂取量自体を増やすことができず低カリウム血症になるケースもある。さらに、導入施設での透析食食事指導において、「野菜やイモ類はすべて水にさらし、茹でこぼすなど必ず下処理をしなければならない」、「生野菜は食べてはいけない」「生くだものは食べてはいけない」のように、食事療法基準に従うがあまり、スタッフが一律な指導を実施しているケースもある。栄養食事指導では、ステージ3b以降の患者に一律カリウム制限を指導するのではなく、血清カリウム値を一時点および経時的に評価したうえで、患者の年齢や食生活・家族背景などをふまえたカリウム制限指導が必要である。とくに、血清カリウム値が4.0mEq/L未満の場合は、極端な食事制限がなされていないか、食欲状況なども確認し、カリウム制限の緩和を検討する。とくにCKD高齢患者や透析導入時は、カリウム制限よりも食べることを中心に指導しなければいけないこともある。

バランスのとれた健康的なカリウム制限食

ポイント➡血清カリウム値を評価しながら、野菜の摂取を確保し、くだものの摂取は調整しながら食事に加えることで毎日の食事が豊かになる。カリウム制限において、とくに摂取量が少なくなりやすい野菜類やきのこ類には、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンCなどの抗酸化物質や食物繊維が豊富である。

極端にさまざまな食品群を制限した食事は、かえって病態に応じた必要栄養素量が不足し、栄養障害を招く恐れがある。カリウム制限において、とくに摂取量が少なくなりやすい野菜類やきのこ類には、ビタミンA、ビタミンE、ビタミンCなどの抗酸化物質や食物繊維が豊富である。CKDにおけるビタミンやミネラルの摂取基準はまだ策定されていない。尿量が少なくなるCKDステージ5Dでは、過剰摂取に注意しなければいけないが、サプリメントや健康食品など特定の食品等からの継続した摂取がない限り、過剰症の心配は少ない。それらの摂取基準は、日本人の食事摂取基準(7)の推奨量や目安量を参考にする(表2)。

血清カリウム値を評価しながら、野菜の摂取を確保し、くだものの摂取は調整しながら食事に加えることで毎日の食事が豊かになる。

カリウム摂取に配慮したバランスのとれた食事を摂る具体的なポイントは以下のとおりである。

1)カリウム含有量の多い食品群、食品を学ぶ。(表3)

水あめや植物性油脂(オリーブ油、サフラワー油、とうもろこし油、パーム油、ひまわり油、やし油、落花生油)、ショートニングのカリウム含有量はゼロである(10)。それ以外の食品は、微量でもカリウムが含まれている。しかし、食品群ごとにカリウム含有量に特徴があるため、まず、食品群ごとのカリウム量の特徴をつかむ(表4)。さらに、日常よく摂取する食品群中においてカリウム量の多い食品を知ることで、食品選択時に活用できる。

2)カリウム含有量の少ない野菜の種類を学ぶ。(表3)

カリウム含有量の多い食品を知ることも大切であるが、カリウム含有量の少ない食品を知ることで、カリウム摂取量を調整することが可能である。摂取量を確保したい野菜類は、緑黄色野菜にカリウム量が多いため、カリウム量が少ないその他の野菜を一緒に使い、野菜摂取量の確保と満足度を上げる。

3)食品の特徴や調理方法による食品中のカリウム量の変化を学ぶ。

例えば、ほうれん草(生食用を除く)やブロッコリーは、必ず茹でて使用する。野菜やきのこ類を和え物やお浸しに使う場合も、一度茹でてから調味する。イモ類は、皮を剥き切った後、調理まで水に放っておくことがほとんどである。このように食材の特徴や調理方法によっては、カリウムを減らすための下処理がおこなわれるものもある。

4)1日の食事量の目安を学ぶ(食品構成)。(表5)

どの食品群、食品からどのくらい摂取すればよいか具体的な量を知ることはもっとも効果的である。

1日の食事量の目安を伝えるために、食品構成表を利用するとよい。また、病院食は一番の教育媒体である。病院食の提供時に献立表も確認できれば、全体量や各食材量など参考になる。

5)主食、主菜に使う肉類や魚類、卵類の1日の摂取量を決め、それらのカリウム摂取量を学ぶ。

穀類や肉類、魚類、卵類、豆類にもカリウム含有量は多い。しかし、エネルギーや病態に応じたたんぱく質の摂取を確保することは、栄養状態・身体状態を良好に維持するために重要である。源である主食(米やパン)や主菜に使うたんぱく質食品(肉類や魚類、卵類)は、毎日、毎食適量摂取しなければならない。そこで、これらに含まれるカリウム量を知っておくことも必要だ。

6)カリウムを減らすための下処理法を学ぶ。

水溶性のカリウムは、食品を水にさらす、茹でこぼすことでその食品に含まれるカリウムが減らすことができる。茹でることで、生100gあたりに対し茹で100gあたりのカリウム量は、約10~20%減る。このため、CKD食事療法のカリウム制限に対して食品を下処理するよう指導する。ただ、下処理では、食品を小さく切ること(切り口をたくさん作る)、「水さらし」は切った食品を20分以上水にさらすこと、「茹でこぼす」とは切った食品や水にさらした食品を水から入れ、沸騰したら一度取り出す過程をいう。とくに、「茹でこぼす」作業の仕方を誤っている場合が多く注意する。

ただし、毎日の食事においてすべての食品を下処理することは、食事・料理に対する満足度を下げ、調理に対するストレスを溜めかねない。「水さらし」の時間が長ければ、水っぽさが増し美味しさは減る。キュウリのように生で食し食感を楽しむべきものは、水さらしで十分である。トマトもミニトマト1~2個/日であれば気にしなくてもよい。

血清カリウム値が高値となったとき、野菜の過剰摂取もあるかもしれないが、イモ類やきのこ類の摂取頻度や摂取量が多くないか、乾物類の摂取はどうか、野菜ジュースや乳製品の摂取はどうかなど、詳しく内容を聞き取るべきである。野菜摂取を必要以上に制限するきっかけとなりかねない。

患者の生活背景はさまざまだ。患者によっては、食事の準備が出来る場合と、一人暮らし等で惣菜買いの生活の場合もある。とくにカリウム含有量が多く下処理をしてもカリウム量が減らないイモ類、きのこ類、ほうれん草やかぼちゃ、たけのこなどは、摂取量に注意し、そのほかの野菜類は、水さらしの下処理を行うことで十分である。最近、スーパー等に売られているカット野菜やサラダは、そのまま水にさらすこともできる(写真1)。また、調理においては、茹で汁や煮汁は必ず捨てるようにする。

7)カリウムの調整順序を学ぶ。

カリウムの摂取量を調整する場合は、まず乳製品や生くだものの摂取を調整する。牛乳には150mg/100g、ヨーグルトには120 mg/100gのカリウムが含まれている。ステージ3b以降で高カリウム値が継続する場合、しばらくは乳製品の摂取を控えたりくだものは缶詰に変更したりする。ステージ5Dでは、尿量の減少もあるため、生くだものの摂取目安は、くだものからのカリウム摂取量を1日100mg程度にするとよい。これは多くのくだもので約60gに相当する。しかし、くだものの中でも、メロン、バナナ、キウイフルーツ、アボガドはとくにカリウム含有量の多い食材であるため、避けるべきである。ただし、前述したように、すべてのステージに置いて血清カリウム値が4.0mEq/L未満の低カリウム血症の場合は、これらを気にする必要はない。患者個々の病態に応じた指導をおこなう。

以上を総合して、血液透析患者におけるK制限を念頭においた献立例を表6に示した。

おわりに

CKD患者における高カリウム血症の原因はさまざまであり、透析患者においても食事からの過剰摂取のみが原因ではない。また、 CKD患者においては、タンパク質制限すれば、カリウムの摂取も減少する傾向にある。血清カリウム濃度は、かならずしも食事カリウム摂取量とは相関せず、カリウムの組織内移行など、その調節機序は複雑である。また、高カリウム血症と同じように低カリウム血症に関しても注意が必要である。上述したように、カリウム制限は、調理を工夫し、食品含量を知る事で、ある程度対応できる。しかし、カリウム制限は一律に行なうべきではなく、血清カリウム値を考慮することで、食事から摂取するカリウム量を判断すべきである。

文献

  1. 厚生労働省;平成26年度国民健康栄養調査結果、栄養素等摂取状況調査の結果、20歳以上
  2. WHO. Guideline: Potassium intake for adults and children. Geneva. World Health Organization (WHO), 2012.
  3. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討会報告書
  4. わが国の慢性透析療法の現況(2014年12月31日現在),2015.一般社団法人日本透析医学会統計調査委員会
  5. 慢性腎臓病の食事摂取基準2014年版. 日腎会誌56: 553‒599, 2014
  6. Lisa M. Einhorn, et al. The frequency of hyperkalemia and its significance in chronic kidney disease. Arch Intern Med. 2009; 169(12): 1156–62.
  7. Joy M. Weinberg, et al. Risk of Hyperkalemia in Nondiabetic Patients With Chronic Kidney Disease Receiving Antihypertensive Therapy. Arch Intern Med. 2009;16:1587-94.
  8. Korgaonkar S et al. Serum potassium and outcomes in CKD: insights from the RRI-CKD cohort study. Clin J Am Soc Nephrol. 2010; 5: 762-9.
  9. 大前清嗣, 他. 生命予後からみた維持透析患者の適正血清カリウム値の検討. 透析会誌. 2013: 46: 915-21.
  10. 文部科学省 科学技術・学術審議会資源調査分科会報告; 日本食品標準成分表2015年版(七訂).

<特集31目次>

A. 食事中りん制限の実践と問題点

B. 食事中タンパク質制限の実践と問題点

C. 食事中カリウム制限の実践と問題点

D. 食事中ナトリウム制限の実践と問題点