特集31B章

B. 食事中タンパク質制限の実践と問題点

1.  タンパク質制限の目的

2.  健常者におけるタンパク質推奨量の考え方

3.  CKDにおけるタンパク質制限食の推奨量とその根拠

4.  タンパク質制限の負の側面と克服する方法

5.  バランスのとれた健康的なタンパク質制限食

タンパク質制限の目的

ポイント➡タンパク質制限の効果は、①尿毒症症状の出現を遅延させる、②代謝性アシドーシスの改善、③インスリン抵抗性の改善、④リン制限によるCKD-MBD( CKD に伴う骨ミネラル代謝異常)の改善、⑤蛋白尿の減少、⑥尿酸降下薬、リン吸着剤、重曹、ビタミンD製剤、利尿薬などの減量、大量処方回避など。

CKD治療の目標は、末期腎不全への進行を抑制するために、腎機能低下を防ぎ、尿毒症症状の発症を抑える事である。古くより、タンパク質制限は、尿毒症の原因となる窒素代謝産物の産生を抑制する事が知られ、さらに、食事性タンパク質は、糸球体圧を上昇させる因子となるため、その制限が、糸球体過剰濾過を抑制する作用を有する事が示唆され、1980年以後、タンパク質制限の有効性が議論されてきた。現在知られているタンパク質制限の効果は、①尿毒症症状の出現を遅延させる、②代謝性アシドーシスの改善、③インスリン抵抗性の改善、④リン制限によるCKD-MBD( CKD に伴う骨ミネラル代謝異常)の改善、⑤蛋白尿の減少、⑥尿酸降下薬、リン吸着剤、重曹、ビタミンD製剤、利尿薬などの減量、大量処方回避などがあげられる(図1)。

一方、透析患者においては、食事療法の目的が大きく変化する。血液透析患者では透析液中へのタンパク質やアミノ酸が喪失し、尿毒症、アシドーシス、あるいは透析自体による慢性炎症状態から分解代謝が増加する。透析患者では、体蛋白や体脂肪の消耗など、栄養障害を認める患者の頻度が高く、種々の理由でエネルギー摂取量が不足する場合がある。そのため、高タンパク質の摂取が推奨されるが、過剰摂取では、尿毒素貯留、血清リン上昇、アスドーシス促進などが危惧される為、健常者に対する推奨量以上にはならないように、留意すしリン吸着薬を併用する必要がある。

健常者におけるタンパク質推奨量の考え方

ポイント➡健常者の1日タンパク質摂取推奨量=0.9 g/Kg体重

健康な成人では、合成されるタンパク質と分解されるタンパク質の量は等しく、動的定常状態を保っている。食事タンパク質は体内で代謝されると、尿素、アミノ酸、ペプチド、尿酸、クレアチニンなどの窒素含有化合物に分解される。タンパク質摂取量の評価方法は摂取されたタンパク質と内因性のタンパク質に由来する窒素バランスに基づいている(1)。窒素バランスが 差し引きゼロであれば、尿、便、皮膚などの体外窒素排泄と体内窒素貯蔵量の変化の総和は摂取された食事中の窒素と等しくなる。推奨量の算定は、窒素出納実験により測定されたタンパク質の維持必要量を基に、それを日常食混合タンパク質の消化率で補正して、推定平均算定の参照値を算定し、その上に個人間変動を加えて推奨量とする(1)

タンパク質代謝は、摂取するタンパク質のアミノ酸組成(タンパク質の質)も重要となる。タンパク質の質については、国民健康・栄養調査の結果の食品群別タンパク質摂取量とそれぞれのタンパク質のアミノ酸組成からアミノ酸摂取量を算出し、アミノ酸スコアを求めると、 近年では、いずれの各種アミノ酸評点パターンを基準にしても、100を越えている。しかがって、タンパク質の推奨量を考える場合には、摂取するタンパク質の質に関して補正は必要ないと判断されている。良質(動物性)タンパク質の窒素出納維持量を検討した過去の報告を平均すると、 タンパク質維持必要量は 0.65g/kg体重 /日となる(2)。また、日常食混合タンパク質の消化吸収率を実測した研究では、平均で 92.2%(女性)あるいは95.4%(男性)であった。これらより、日常食混合タンパク質の消化率は 90%とし、推定平均必要量が算定された。推奨量は、個人間の変動係数を 12.5%と見積もり、推定平均必要量に推定量算定係数1.25を乗じた値とした(2)

推定平均必要量算定の参照値(g/kg体重/日)=たんぱく質維持必要量÷消化率=0.65÷0.90=0.72 推定平均必要量(g/日)=推定平均必要量算定の参照値(g/kg 体重/日)×参照体重(kg) 推奨量(g/日)=推定平均必要量(g/日)×推奨量算定係数

日本人におけるタンパク質摂取基準 (2015年版)を表1に示す。

CKDにおけるタンパク質制限食の推奨量とその根拠

ポイント➡進行するリスクのあるCKDにおいては、 1.3g/kg BW/日を越えない事、G3aでは、 0.8~1.0 g/kg BW/日、 G3b以降では、エネルギーを十分確保した上で 0.6〜0.8g/kgBW/日が推奨されている。血液透析患者において窒素バランスを保つのに必要とされるタンパク質の下限は0.9 g/kg/日で、上限値はリン摂取量の増加を避けるため1.2g/kg/日とする(JSDTガイドライン)。

タンパク質の合成・代謝の複雑な過程は、 CKDにより影響を受ける。健常人では、タンパク質の摂取量の変動に応じて、窒素バランスをゼロに保つ適応機構が存在する(1)。これまで多くの研究で、CKDにおける食事タンパク質摂取量の効果が調べられた(3)。ガイドライン「慢性腎臓病に対する食事摂取基準 2014年版」では、 CKDステージ1および2におけるタンパク質摂取に関しては、「過剰な摂取をしない」と記載されている (3)。また、その過剰を示す指示量として、進行するリスクのあるCKDにおいては、 1.3g/kg BW/日を越えない事が目安とされている。ステージ G3aでは、 0.8~1.0 g/kg BW/日、 G3b以降では、エネルギーを十分確保した上で 0.6〜0.8g/kgBW/日が推奨されている(3,4) (表2)。.

タンパク質制限は、腎代替療法が必要となるまでの時間を延長するが、腎機能の低下速度を抑制する効果は乏しいと考えられている。タンパク質制限が有効な時期が異なるので、その点を考慮して指導する必要がある。上述したように、たんぱく質制限食は、主に中等度(CKD ステージG3bから重度の CKD 患者に対する食事療法として推奨されている。一方、CKD ステージ G3a より軽症の CKD に対するたんぱく質制限食の有効性は少なく、たんぱく質摂取量について明確な指針を設定するのは困難と予想される。また、CKD ステージG3a の患者の多くが尿たんぱく陰性で、進行性に末期腎不全に至るリスクが低いこと、CKD に伴う代謝異常も軽微であることを考えると、これらの患者に対し、 積極的なたんぱく質制限を行う意義は乏しいと考えられる(3,4)

タンパク質制限は、尿蛋白の程度にかかわらず、糖尿病性腎症の尿蛋白、尿中アルブミンを減少させることが報告されている (3,4,5)。過去の大規模多施設研究である腎疾患に対する食事改善療法試験 (Modification of Diet in Renal Disease:MDRD研究)では、CKD(当時はこの名称はなかったが)進行におけるタンパク質制限は、3年間の推算糸球体濾過量eGFRの推定平均低下度において、食事療法群間で有意差はなかった事を示した(6)。しかしながら、その後の二次解析において、低タンパク質食の遵守度に応じて結果を解析すると eGFRの低下は有意に遅延し、腎代替療法が必要となる時期を遅延させる事が示された(7)。MDRD研究は、CKDにおける腎機能低下の進行がなぜ改善されなかったのかについて、1)対象者の選定基準、2)腎臓機能低下速度の予測、3)多発性嚢胞腎患者の割合、 4)ACE阻害剤使用、5)調査期間など、複数の問題点を提示した。

また、過去のRCT研究として、Cianciaruso らは、透析導入後を含めた生命予後に及ぼす影響を検討 している(8)。4 年間の観察の結果 0.55 g/kg・ 理想体重(BMI 23)/日の LPD 群(実際の平均推定摂取量:0.73 g/kg・ 理想体重/日)と 0.80 g/kg・ 理想体重/日の MPD 群(実際の平均推定摂取量:0.90 g/kg・ 理想体重/日)では、生命予後に有意な差を認めなかった(3,8)。また、MDRD 研究において低タンパク質食群が、超低タンパク質群より生命予後が良好であったことも考慮すると、標準的治療としてのタンパク質制限の指導量は0.6~0.8 g/kg・ 標準体重/日と考えられる(3, 6,7). また、過去の報告の多くは、推定タンパク質摂取量 は0.75~0.90 g/kg・ 標準体重/日となっていることも根拠となる (3,6,7)。一方で、より少ないタンパク質摂取量では、体タンパク質の異化を抑制するために十分なエネルギーを確保することが必要である(3)。 

厳格なタンパク質制限(0.6g/kg/日未満)の方が、末期腎不全の相対リスクを軽減する効果が高い事が示唆されている(3,9)。しかし、MDRD研究では、一部に栄養障害の可能性が指摘されており、さらに試験終了後8年間経過を追跡調査した報告では、厳格な低タンパク質制限を実施したグループにおいては、通常の低タンパク質群とくらべて、有意に死亡率が高かった事が報告されている。MDRD研究は、摂取エネルギーが25 kcal/kg体重/日前後であったので、エネルギー不足が、死亡率増加の原因であった可能性も考えられる(3,10)

ケト酸サプリメントを併用した厳格なタンパク質制限 (0.6g/kg/日未満)は、進行した CKDにおいて透析導入の延長や腎機能低下速度が、抑制されるという RCTが報告されている(3,11)。最近の報告で、eGFR<30m/minの非糖尿病患者 (207名)において、ケト酸サプリメントと植物性タンパク質を組み合わせた低タンパク質食 (0.3g/kg/日)では、低タンパク食 (0.6g/kg/日)に比較して、腎代替療法への移行を有意に遅らせた成績が報告されている(12)。このように、厳格なタンパク質制限は有効ではあるが、様々なリスクが高まる可能性が否定できないため、特殊食品の使用経験が豊富な腎臓専門医と管理栄養士による、厳格な指導が必要とされる(3)

 

ステージ 5D (透析患者)においては、身体のタンパク質を抜き取るので、これを代償するためには一日の摂取量を増やさなければならない(13)(表3)。透析患者では、残存する尿量にもよるが、尿素窒素は体内に蓄積し、透析液中への拡散によってのみ除去される。しかがって、血液透析患者におけるタンパク窒素出現量を考慮し、その計算方法は、透析前後の血中尿素窒素濃度、ダイアライザーの性質、透析時間および限界濾過量などを考慮した複雑な式が必要とされる。現在、血液透析患者において窒素バランスを保つのに必要とされる蛋白量は概ね、 1.0〜1.10 g/kg/日であることが示されている(13)。透析患者を対象とした研究では、低アルブミン値を示す患者は死亡率がはるかに高いことが示されている。そのため、十分なタンパク質摂取が強調される。

Shinabergerらは、 53,933名の血液透析患者に対して実施した観察研究により、nPNA(normalized protein equivalent of nitrogen appearance)で、群分けした患者において、2年間の生命予後を検討したところ1.4 g/kg/以上、および 0.8g/kg/日未満のグループで、全死亡に対するハザード比が、有意に高かった(14)。これらの研究を参考にして日本透析学会ガイドラインでは、下限を摂取不足のリスクを回避するため、0.9g/kg/日としている。この理由として、患者の平均年齢の上昇、残存腎機能を有する保存期からの移行期における指導が考慮された事があげられる。また上限値については、リン摂取量が増加する危惧があるため1.2g/kg/日とされている(13)

タンパク質制限の負の側面と克服する方法

ポイント➡効率の良いタンパク質代謝を維持する為には、エネルギーの確保に十分に注意することが重要である。

CKD患者でタンパク質制限を実施する場合には、糖質や脂質の摂取が不十分で必要エネルギーに達しないとタンパク質利用効率が低下する(3,4)。つまり、効率の良いタンパク質代謝を維持する為には、エネルギーの確保に十分に注意することが重要である。とくに、エネルギー不足は、タンパク質利用効率を低下させ、エネルギー摂取が増加すると窒素出納は改善される(1)。また高齢者では、エネルギー不足により、サルコペニアやフレイルの発症、動脈硬化の進展、骨塩量低下などのリスクがある。また、腎臓病患者にともなう低栄養は「protein-energy wasting (PEW)」と呼ばれる(15)。とくに厳格なタンパク質制限では、この問題が重要となる。

以上のような問題点があるため、これらを克服するには、以下の点が重要である。1)低タンパク質療法においては、その摂取タンパク質を正確に知る事が必要である。とくに、エネルギー摂取量の把握と、正確なタンパク質摂取量を知る。2)そのためには、毎日の食事摂取量を記載する習慣を身につける、3)タンパク質に含まれるリン等の情報、などが必要である。

摂取タンパク質の正確な把握には、Maroniらが考案した方法を用い、尿素出現量からタンパク質摂取量を推定することが可能である。タンパク質制限を行なう場合には安全性にも留意して、「日本人の食事摂取基準」(2010年)では、平均必要量は 0.72g/kg実体重/日、推奨量90g/kg実体重/日となっている。実際のタンパク質摂取量の評価にあたっては、タンパク質制限時の食事記録では、蓄尿を行い以下の Maroniの式から算出する。

1日のタンパク質摂取量( g/日) ={1日尿中尿素窒素排泄量 (g) + 0.031(g/kg) x 体重 8kg}} x 6.25

ただし、この式はタンパク質不足やエネルギー不足など、体蛋白質の異化亢進している場合には、実際の摂取量を過大評価することに注意する(3)。

治療効果を得る為には、日頃の食事摂取状況を把握し、食事療法が正確に行なわれているかを確認する必要がある。この為には、食事記録を記載する事を習慣づけるようにする。毎回の外来受診時には、自分の記録した「栄養摂取記録」をチェックしてもらうことも必要である。これらの指導には、経験のある医師や管理栄養士により指導を受けることが重要である。

透析患者における十分量のタンパク質摂取は、リン負荷、酸負荷などにつながり、アシドーシスや高リン血症の危険性が高まる。リンの項目でも記述したが、タンパク質を含む食品には、リンも同じように含まれており、リン負荷につながる。高リン血症は、 CKD-MBDとよばれる病態を惹起して、心血管障害により患者の生命予後を左右する重要な問題となる(16)。また、アシドーシスは、骨代謝異常に関連する可能性がある。上述したShinabergerらの研究においても、1.4g/kg/以上の過剰なタンパク質摂取は生命予後が悪化する事が報告されている(14)。一方で、過度タンパク質制限は、透析患者におけるPEWなどの栄養障害の危険性がある。

バランスのとれた健康的なタンパク質制限食

ポイント➡低タンパク質制限を実践する上で重要な事は、1)十分なエネルギーの確保と、2)食事のアミノ酸スコアを100にする事である。

バランスのとれた食生活を維持しながら、低タンパク質療法を実施するには、基本的な食事バランスの理解が重要となる。とくに、低タンパク質制限を実践する上で重要な事は、1)十分なエネルギーの確保と、2)食事のアミノ酸スコアを100にする事にある。低タンパク食を行なうには、タンパク質を減らし、その分をエネルギーと脂質で補う必要がある。脂質エネルギー比率は20〜25%が望ましいとされており、過剰摂取は避ける必要がある。そのため、主なエネルギー源は炭水化物で占める事になる。米飯などの主食には、タンパク質が含まれているので、通常食品のみで献立を作成するとエネルギーが充足できず、油脂類など多用すると脂っこい食事となり、食事療法の継続が困難となる。そのためには、腎疾患用の治療用特殊食品を使用する。

1)カロリー摂取方法を学ぶ

腎疾患用の治療用特殊食品は、タンパク質を低下させながらエネルギーを強化した食品である。①タンパク質を控えた主食・副食・間食として利用できる食品:この分類には「デンプン製品」と「タンパク質調整食品」の2種類があり、必要なエネルギーを確保することが可能となる。デンプン米、デンプン麺、デンプン粉製品などがある。②中鎖脂肪酸 (MCT)製品:中鎖脂肪酸製品はエネルギー補給食品として開発され炭素数が8−10個の飽和脂肪酸からなる中鎖脂肪酸 (medium chain triglyceride: MCT)からなり、高エネルギー、低タンパク質、カリウム、リン、ナトリウムの含有量が少ない。③低甘味ブドウ糖重合体製品:砂糖に比較して1/7〜1/3と甘みが少なく、透明、無臭なので、飲み物、菓子類、料理に利用できる。砂糖と同じ甘さで、3〜7倍のエネルギーを摂取できる。④菓子・ジュース類:エネルギー不足の患者用に、粉飴、 MCT製品、タンパク質薄力粉、タンパク質調整米、デンプン製品を主成分とし、タンパク質が少なく少量でエネルギーが得られるように製品化されている。

上述したように、 CKD病態の進行を遅らせるためには、低タンパク質・高エネルギー食の必要性があり、治療用特殊食品の使用は、タンパク質制限食を実施する上で有用なツールと考えられる。タンパク質調整食品のメリットとしては、十分なカロリーによるタンパク質利用効率の増加、および食事タンパク質の質を向上できる点である。一方で、デメリットとしては、調理技術の習得が必要で、継続購入の為に経済的な負担が大きい事である。表4、表5に、現在販売されているエネルギーおよびタンパク質調整食品のリストを示す。また、図2には、タンパク質調整食品を用いた、 1,800kcalタンパク質 40gの朝食例を示す(19)。

図2. エネルギー 1,800 kcalタンパク質 40gのタンパク質調整食について

タンパク質調整食では、低タンパク質食パン(レナケアー ふんわり食パン、日清オイリオグループ)に変更した。ドレッシングから、マヨネーズに変更して、エネルギーを増加させた。サラダのブロッコリーと卵の量を半分に減らし、キャベツを追加した。その他は、すべて常食と同じである。

2)タンパク質の質について学ぶ

—良質なタンパク質摂取とアミノ酸スコアー

タンパク質の栄養価の評価方法は、生物学的評価法と化学的評価法で決まる。生物学的評価法(生物価)は、試験タンパク質を実際にヒトや動物に給与し、体重の増加や消化・吸収された窒素量に対する体内に保留された窒素量の割合から評価する方法である。化学的評価方法(化学価、アミノ酸スコア)は、試験タンパク質のアミノ酸組成を分析し、ヒトが必要とする不可欠アミノ酸(必須アミノ酸)構成割合と比較して評価する方法である。日常よく用いられる食品タンパク質の生物価およびアミノ酸価(アミノ酸スコア)を表6に示す。この表から、動物性食品のタンパク質が植物性食品に比べて良質であることがわかる。しかし、食事では、単一の食品を食べるのではなく複数の食品を組み合わせて摂取している。食品を組み合わせる事により栄養価の低いタンパク質を含む食品を用いた食事でも、全体として栄養価を引き上げることができる。

動物性タンパク質の比率を60%以上に増加させると、自然とアミノ酸スコアが上昇し100に近づく。タンパク質制限食で、動物性タンパク質比を60%以上にする為には、主食の米や小麦からの植物性タンパク質を含む食材を、主食用の低タンパク質食品を使用することで、アミノ酸スコアを上昇させることが可能になる。前述したように、主食用の低タンパク質食品には、小麦やとうもろこしのデンプンを加工したデンプン製品、米や小麦のタンパク質を酵素処理で分解除去したタンパク質調整食品がある。これらの食品では、タンパク質含量が少なく、この低下させた分を、肉類等の動物性食品の使用に回す事が可能になる。さらに、主食でエネルギー確保ができるので、油脂や砂糖を少なくした食事となり、アミノ酸スコアの高い食事となる。

3)植物性タンパク質について学ぶ

アミノ酸スコアを上昇させる為に、動物性タンパク質をより多く摂取する「低タンパク食」では、できるだけ植物性タンパク質を減らすようにする。しかし、植物性食品には、動物性食品に含まれていない種類のビタミン・ミネラル・微量元素や、食物繊維が多く含まれているものが豊富ある。タンパク質含量を調べながら、目標タンパク質摂取量の枠内で積極的に食材を取り入れ、バランスのいい食事を工夫する必要がある。植物性タンパク質を減らす為に野菜などを食べるのをやめてしまうと、不自然な無理のある食事になる。とくに食物繊維は、便通を整たり、血糖上昇を緩やかにするなど、多くの利点がある。さらに、野菜に含まれるビタミンなどの栄養成分に加えて、非栄養成分の重要性も報告されている。野菜や果物には、ミネラル、ビタミン、食物繊維など以外にも、ポリフェノールなどの、非栄養素が含まれている。このような成分は総称して、ファイトケミカルと呼ばれている。ファイトケミカルには抗酸化作用を有するポリフェノールの他、カロテノイド、ビタミンD、ビタミン Eなどは、免疫機能強化など、新しい作用機序も報告されており、バランスを考えた、柔軟な考え方が必要である。

4)リン/タンパク質比を学ぶ

透析患者においては、十分量の良質なタンパク質を確保すると同時に、リン制限を目的として、リン吸着剤を併用して、血中リン濃度を管理する。さらに、タンパク質を十分に含み、かつ、リン含量の低い食品(リン/タンパク質比の低い)を選択すると同時に、十分なエネルギーを確保することが重要である。

おわりに

タンパク質制限は、エネルギーを十分確保することが重要で、最近では、低タンパク食でエネルギーが確保できる食品が多く販売されている。バランスのとれた低タンパク食の実施には、上述したような栄養面からの情報に加え、 CKD治療で使用される薬物療法との関係が重要であり、とくにステージG4およびG5においては、食事療法は薬物療法と同じような有効性があると考えられる。ただし、これらの実践には、治療用特殊食品使用の経験のある医師や管理栄養士により指導を受けることが重要である。

文献

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<目次>

A. 食事中りん制限の実践と問題点

B. 食事中タンパク質制限の実践と問題点

C. 食事中カリウム制限の実践と問題点

D. 食事中ナトリウム制限の実践と問題点