特集31A章

<目次>

A. 食事中りん制限の実践と問題点

1.  CKDにおけるリン制限の目的

2.  健常者におけるリン推奨量の考え方

3.  CKDにおけるリン制限食の推奨量とその根拠

4.  負の側面と克服する方法

5.  バランスのとれた健康的な制限食を実施するには

1. CKDにおけるリン制限の目的

ポイント➡高リン血症の悪化は血管石灰化の進行や心血管系イベントの増加を招き、死亡率の上昇を招く!

リンは体重の約1%を占める元素であり(カルシウムは体重の2%)、体内に広く存在している。また細胞内では核酸、リン脂質、タンパク質、高エネルギー化合物などに含まれ、様々な生理機能に関係している。腎臓は血中リン濃度調節の中心臓器であり、腎機能の低下は、リン代謝異常をもたらす。リン代謝異常はCKD患者に共通して見られる病態であり、副甲状腺機能亢進症や腎性骨症の原因となるばかりでなく、その悪化は血管石灰化の進行や心血管系イベントの増加を招き、死亡率の上昇を招く(1)(図1)。これらのことからCKD患者のリン代謝異常(とくに高リン血症)の予防とその是正は非常に重要である。とくに、高リン血症はCKDにおける腎機能低下、死亡および心血管疾患の独立した危険因子である。すべての CKDステージにおいて、血清リン値を基準値内に保持が必要であり、リン負荷を軽減させる事で、リン代謝異常を是正することが重要となる。そのためには、食事からのリン摂取を制限する事が必要となる。

2. 健常者におけるリン推奨量の考え方

ポイント➡健常者でもリン摂取許容上限量は 3,000~3,600 mg/日である。日本人高齢女性のリン摂取量の平均値は 1,019±267 mg/日。

日本人におけるリンの推奨量を算出する際には、各国の摂取基準が考慮されている。アメリカ・カナダ食事摂取基準では、血清リン濃度の正常下限値を維持できるリン摂取量を 推定平均必要量として求め、その値から推奨量を算出している(2)。しかし、日本人に関する成績は報告されていない。平成 22 年、23 年国民健康・栄養調査 によると、リンの摂取量の中央値は 944 mg/日である。 ただし、この調査には加工食品に添加されているリンの量は加算されていないために、実際の摂取量はこの値よりも多いことも考えられる。平均年齢68±6 歳の高齢女性を対象に食事調査を実施した結果では、リン摂取量の平均値は 1,019±267 mg/日と報告されており、国民健康・ 栄養調査の結果とほぼ同様の値である(2)。  以上から1 歳以上については、アメリカ・カナダの食事摂取基準を参考にして、平成 22 年、 23 年国民健康・栄養調査の摂取量の中央値が目安量とされている(2)。よって従来のリン摂取量と血清リン濃度上昇の関係に基づき、耐容上限量を設定することが現時点では最も妥当な方法と考えられる。

血清無機リン(mmol/L)と吸収されたリン(mmol/日)の関係を示したのが以下の式である。

 血清無機リン=0.00765×吸収されたリン+0.8194×(1-e(-0.2635×吸収されたリン)

これに、リンの吸収率を 60% と見込み、血清リンの正常上限 4.3 mg/dL、リンの原子量 30.97 を用いると、血清リンが正常上限となる摂取量が 3,686 mg/日となった。これを健康障害非発現量と考え、性及び年齢階級によってはカルシウム/リン比の低い食事により骨代謝に悪影響がある可能性を考慮して不確定因子を1.2 として、3,072 mg/日(丸め処理を行って 3,000 mg/日) と成人の耐容上限量が算出された。この値は、前述のリン摂取量と食後の血清リン濃度の関係で示されているように、リン摂取量が 3,000~3,600 mg/日で血清リン濃度が正常上限を超えていることと比較してもおおむね妥当な値と考えられる(2)。(表1)

3. CKDにおけるリン制限食の推奨量とその根拠

ポイント➡蛋白質摂取量が減少しているにも関わらず血清リン濃度が上昇している患者群では生存率が低く、逆に蛋白質摂取量が増加している患者群で血清リン濃度が低下している場合には生存率が高い。

早期 CKD 患者では、軽度の腎機能低下による相対的なリン負荷の増加に対し、代償性にfibroblast growth factor 23 (FGF23)や  副甲状腺ホルモン (PTH)が上昇することで単位ネフロン当たりのリン排泄量が増加するため、CKD が高度に進行するまで血清リン濃度は正常範囲に保持される。実際にFGF23は CKD ステージ2 より既 に上昇しており、CKD の予後と相関することが知られている。したがって、CKD 早期 からリンの負荷を制限することが、CKD の進行や CKD-MBD を抑制するために好ましいという考えもある(3,4)。しかし、CKD のどの段階からどの程度リンを制限すればよいかについての科学的根拠 は十分ではない(3,4)

一方、透析患者(ステージ 5D)においては2003年の米国KDOQI (Kidney Disease Outcomes Quality Initiative)ガイドラインでは、透析患者における蛋白質摂取量を1日あたり1.2 g/kg体重と比較的高めに設定すべきとしている(1,5)。また、これまでの疫学研究の結果から、維持血液透析患者では、標準化蛋白異化率(nPCR)および標準化窒素出現率 (nPNA)は、1日あたり1.4 g/kg (食事蛋白質摂取量に換算して約1.5 ~ 1.6 g/kg/日に相当)までであれば、より高い方が生存期間も長くなると言う報告もある(1,5)。 透析患者のリン摂取量は、食事調査や聞き取り調査による栄養評価法で求められるが、食事内容や計量が困難な場合が多く、正確なリン含有量を把握することは容易ではない。そこでリン摂取量とタンパク質摂取量との間に高い相関があることを利用して、リン摂取量 (g)を、標準体重で補正した蛋白異化率 (nPCR)から食事中の蛋白質量から求める式(リン摂取量 (g) = 蛋白質摂取量 (g) x 15)で推定している。但し、このような窒素代謝動態からの算出方法は、患者自身の栄養素代謝状況などに大きく左右されることも考慮しておく必要がある。

y値は、3年間(2001年7月~2004年6月)の死亡リスクの対数変換値を表す。多変量解析回帰スプラインモデルはcase mixおよび栄養状態・炎症の観察値で補正した。点線は95%信頼限界を表す。

また慢性維持透析患者約3万例を対象に実施された3年間の疫学調査では、透析前の血清リン濃度が低下し、同時に食事由来蛋白質摂取量が低下すると死亡リスクが上昇することが明らかとなった。またこの研究において、血清リン濃度と死亡リスクとの関係は“J字”カーブとなることが示されている(6)。一方、透析前血清リン濃度の6ヶ月間の変化と、同じ6ヶ月間の蛋白質摂取量が (nPNAまたはnPCRの変化量を指標として)逆方向に変化した場合(リン濃度が低下し、蛋白質摂取量が増加した場合と、血清リン濃度が上昇し蛋白質摂取量が減少した場合)を比較した結果、これらは生存率と相関することが示された(図2、図3)。すなわち、蛋白質摂取量が減少しているにも関わらず血清リン濃度が上昇している患者群では生存率が低く、逆に蛋白質摂取量が増加している患者群で血清リン濃度が低下している場合には生存率が高いことが分かる(6)。以上の成績は、蛋白質の摂取量を制限することなく、リンの量を制限することがCKD患者のリン管理にとってより効果的である可能性を示唆するものである。

各患者におけるnPNAと血清リン濃度の差は-0.98 ~ 0.98である。Y軸は、case mixおよび栄養状態・炎症の観察値で補正した多変量Cox回帰スプラインモデルに基づく3年間の死亡リスクの対数変換値を表す。点線は95%信頼限界点を表す。各患者に対して、nPNAまたは血清リン濃度の変化のパーセンタイル値に基づき、0.01 ~ 0.99 のパーセンタイルスコアを割り当てた。

4. 負の側面と克服する方法

ポイント➡我々が摂取するタンパク質には多くのリンが含まれている。食事からのリン摂取を制限するとタンパク質摂取量も低下することが多く、体蛋白の消費や生存期間の短縮につながる。

CKD患者では、 PEWなどの栄養障害が出現し、それらが各種合併症や生命予後と密接に関連することが知られている。一方、体タンパク質の減少を補う為には、十分なカロリー摂取とタンパク質の補給は重要であるが、我々が摂取するタンパク質には多くのリンが含まれている。食事からのリン摂取を制限するとタンパク質摂取量も低下することが多く、体蛋白の消費や生存期間の短縮につながる。また、リンは加工食品に多く含まれ、現代食生活では、避ける事の出来ない食材である。食品選択において、リンを多く含む食材は、食品価格とも関連しており、米国の研究では、年間所得とリン摂取量、血中リン濃度との関係が報告されている。つまり、リンを含む食材は安価であり、年間所得の低い家庭では、血中リン濃度が高い傾向がある(7)。これらを克服するには、リン含量が低く、リン体内利用効率の低い食品の選択、あるいは加工食品の場合には食品表示情報から推察する必要がある。ただし、食品表示規則は食品のリン含量を載せることを求めておらず、このことが食品や添加物由来のリン含有量評価をより困難にしている。

5. バランスのとれた健康的な制限食を実施するには

ポイント➡適切なリン吸着剤を処方するとともに、無機リン/タンパク質含量比が低い食事を供すること、またリン酸化合物を比較的多く含むとされる加工食品や清涼飲料水の摂取は可能な限り避ける。アミノ酸スコアの高い植物性食品(大豆など)の利用や、リン吸収率の低く、かつカルシウム含量が適度な食品を選ぶ事が重要である。

食事からのリン摂取を制限するとタンパク質摂取量も低下することが多く、体蛋白の消費や生存期間の短縮につながる。タンパク質とリンの関係を図4に示す。 CKD患者に対して献立や食事計画を考える場合には、食品及び食事中のリンの絶対量(添加物としてのリンを含む)とタンパク質に対するリン含量比の両方を考慮すべきである。食品中のリン、とりわけ添加物としてのリン化合物の摂取状況とリン吸着剤の併用とともに、患者のリン代謝異常に即した形で、かつ無理のない範囲でのバランスの良い栄養管理が、持続的な心血管障害につながる高リン血症の治療に必要であると考えられる(7)。また、透析患者における有効な栄養指導を考えるためには、適切なリン吸着剤を処方するとともに、患者のモチベーションを維持可能な範囲内で、無機リンの含量が最も少なくかつタンパク質を十分に含む(リン/タンパク質含量比が低い)食事を供すること、またリン酸化合物を比較的多く含むとされる加工食品や清涼飲料水の摂取は可能な限り避けることが必要であると考えられる。この為には、アミノ酸スコアの高い、植物性食品(大豆など)の利用や、リン吸収率の低い、またカルシウム含量にも注意しながら、食品を選ぶ事が重要である。

1)リン含量を学ぶ

食事に含まれるリンは、通常1日の食品摂取量あたりの量として mg単位で表される。 Oenningらは、標準的な食品成分表と化学的分析の両方を用いて20食のリン含量を推定する3つの方法を比較し、いずれを用いても食事からの推定リン摂取量は15−20%も低い事を明らかにした。さらにこの試験では、食品成分表を用いた場合には化学的分析を用いた場合に比べて、推定リン摂取量が平均で272 mg/日低い事が示された(8)。このように、食品中のリン含量は、食品成分表と実測値の間で、過小評価されている場合がある。よって食品中リン含量の絶対値よりも、相対的に高い食品の種類を学ぶ事が重要と考えられる。表2に食品中のリン含量を示す。

2)リン含量およびリン/たんぱく質比を学ぶ

栄養管理の側面から、食事に含まれるリンの絶対量だけではなく、タンパク質に対するリンの含量比も考慮することも大切である。とりわけ蛋白質を含む食品のリン含有比はその食品の種類によっても大きく異なることを十分に認識する必要がある(7)。また、タンパク質を多く含む食品は有機リンの主な摂取源でもあるため、CKD患者にとって食事中リン含量を示す指標としては、個々の食品におけるタンパク質 (g)に対するリン含量(mg)比が、より適切と考えられる。これらの指標を用いると、たんぱく含量が同じならば、リン含有添加物を多く含む食品(チーズなど)ほど、その値が高くなる。また、清涼飲料など、リン、特にリン含有添加物を極めて多く含み、タンパク質をほとんど、あるいは全く含まない食品を区別することが可能になる。蛋白質1 gあたりのリン含量は、卵白では僅か1.4 mgであるが、卵黄では22.8 mgであり、卵白の実に16倍である(7)。以上、絶対的リン含量やリン/タンパク質比の情報は、有効なリン管理のツールとなる。ただし、この指標では、リンの生体内利用率や腸管吸収性に関する情報は得られない。

3)リンの生体利用効率を学ぶ

Krapらは、リン/たんぱく質比、あるいは、リン絶対含量では、推察することの出来ないリンの生体内利用率について検討した(9)。彼らは、試験管内消化性リン含量(In vitro digestible phosphorus content, DP content)を用いて、試験管内で食品を消化した後に、遊離する無機リンの含量 (DP content)を測定する方法を考案した。この方法は、実際の消化酵素により試験管内で各種食品を消化し、その際に遊離される無機リン含量を測定する事で、生体内吸収率を予想する方法である(9)。事実、肉類や野菜に含まれるリン形態は異なっており、それらを分解する生体消化能を評価できる。この方法で解析された、食品中の遊離リン含量は、明らかにリンの絶対値やリン/タンパク質比では、評価できない部分の性質と推察できる。この解析方法では、植物性リンは、DP contentが低く、大豆などはリン含量は高くても、リンの生体利用率の低い食品と考えられる。よって、DP contentは、食品中のリンの生体利用率を知る有効な指標と推察される。

4)調理法を学ぶ

食品の調理方法(ゆでるなど)を工夫して、リンを除去する事も重要である。 リンはカリウムと同様に、細胞内に多いイオンである。熱処理により、細胞膜の破壊は、細胞内リンの除去につながる。ただし、カリウムとは異なり、遊離型で存在するリンは少なく、多くが有機物に結合しているので、カリウムのような効率の良いリン除去は困難である。Ando らは、食肉を中心として、各種調理法を考案し、リン除去の効率を報告している(10)。今後は、有効なリン除去方法を考案する事も重要になると予想される。

   

5)植物性タンパク質の選択を学ぶ

食事中に含まれるリンの種類(有機リンか無機リンか)や、摂取源(動物性か植物性か)も重要な要素である。肉類に含まれるリンは有機のリン酸として細胞内に多く存在するため容易に加水分解され腸管から速やかに吸収される。これに対して、豆類や穀類等の植物性食品に含まれるリンは、その殆どがフィチン酸もしくはフィチン酸塩の形で存在する。フィチン酸の形で存在するリンは消化管からの吸収が低いため、種実類や豆類などの植物性食品はたとえ見かけ上のリン含有量が多いとしてもその生体内利用率は比較低く、通常50%未満である。これに対して添加物として含まれる無機リン酸は蛋白と結合しておらず、腸管から速やかに吸収される。無機リンの吸収率はその種類にもよるが90%を超えると考えられる。このため、添加物由来のリンによる負荷は、食事からのリンの摂取に比べて過度に高いことが推測される。

また、リン吸収や代謝を考慮すると他の栄養素との相互作用も重要となる。植物性食品には、動物性食品に含まれていない種類のビタミン・ミネラル・微量元素や、食物繊維が多く含まれているものが豊富にある。野菜、海藻、キノコ類、など、各種ビタミンを多く含んだ食品、さらに非栄養成分の重要性も報告されています。植物 (Phyto)の化学成分 (Chemical)という意味で、ファイトケミカルという言葉が使用されている。野菜や果物には、ポリフェノールなどの、非栄養素が含まれている。とくに抗酸化作用を有するポリフェノール、カロテノイド、ビタミンD、ビタミン Eなどの摂取は、リン過剰がもたらす種々の弊害を考えた場合に、防御に有効な成分となる可能性が考えられる。

6)加工食品のリン含量を学ぶ

透析患者に対するリン制限食は通常、リン摂取を800 ~ 1,000 mg/日とすることを目標にするが、現実的には困難な場合が多い。一般にリン制限食は美味しくなく、またスナックやファーストフードといった加工食品の摂取が厳しく制限されることも相まって食事療法の継続が困難となるケースが多い。 食品中のリンは、無機あるいは有機体として広く分布しており、とくに穀類、獣肉、豆類、乳・乳製品など、あらゆる食品に含まれているが、これに加えて、食品添加物として多くのリン酸塩が食品中に含まれる。例を挙げると、蒲鉾やハム・ソーセージ、麺類などの歯ごたえをよくし、肉の発色をより綺麗に見せる結着剤(ポリリン酸ナトリウムなど)、醸造用剤、中華麺や即席麺などの皮に使わされるアルカリ剤(かんすい;リン酸カリウムなど)、粉乳等に使用される栄養(鉄)強化剤(ピロリン酸第一鉄)などであり、インスタント食品加工食品、菓子、調味料に多く含まれる(表3)。我が国で添加物として使用が認められているリン酸化合物は約30種類である。しかし食品添加物には添加物の使用基準や表示義務がないため、現状ではその摂取量と種類を個人が把握することは困難である。

7)飲料水のリンを学ぶ

酸味料としてリン酸を使用するコーラ系の炭酸を含む清涼飲料水には、1缶 (約350 ml)あたりに40~70 mgのリン酸塩を含む。コーラのような炭酸系の清涼飲料水などでは、「キレ」「爽やかさ」「スッキリ」感などを、リン添加により演出している。コーラ系飲料の健康上の影響については、コーラ系を定期的に摂取する人はそうでない人に比べて骨密度が低い、などの報告がある。コーラ系飲料の骨に対する影響はノンカフェインのコーラ系飲料でも同様であることから、コーラに含まれるリン酸がカルシウムの吸収を阻害し、骨からのカルシウム溶出を促進させる原因ではないかと考えられている。リン酸化合物は多くの加工食品や菓子、清涼飲料水に使用されていることから、加工食品や嗜好品を好む若年層において過剰摂取の危険性が指摘されている。また、最近の報告では、各種ビールやワインのリン含量も報告されており、それらの情報を入手することも、リン制限につながる。

8)カルシウム/リン比を学ぶ

日本人の食生活では、カルシウム摂取量は低く、リンは摂取量が高い。カルシウムの存在は、リン出納と関係する事が動物実験なので、知られている。

とくに、乳製品は、利用効率の良いリン供給源であり、多くのカルシウムも含んでいる。リンの体内利用率には、食事中カルシウム量が重要であり、骨の健康を考えれば、カルシウム:リン比も考慮すべきであり、PTH分泌を介したリン排泄にも重要である。ただし、乳製品は、大量のカルシウムが含まれるがリン含量も多く、リン負荷を増大させ、体内リン貯留を促進すると予想される。また、野菜の中でもブロッコリーのような,アブラナ科の野菜に含まれるカルシウムやリンの吸収率は高いと考えられている。CKDではカルシウム必要量を満たしながら、リン負荷を軽減させることが重要なので、適度なカルシウム補給を考える必要がある。

おわりに

以上、 CKD患者におけるリン制限の有効性に関して、食事面を中心に記載した。リン負荷の軽減が CKD進行を抑制や心血管障害の発症を抑えるかに関して、多くの研究が報告され議論されている。我々が摂取する食品中には多くのリンが含まれ、その生体利用率も異なる(図5)。その中で食品添加物や乳製品は、とくに、生体利用率が高い。さらに、食生活におけるリン摂取量は,コンビニエンスフードや調理済み食品の摂取が増えたために,増加傾向にあることが示唆されている。しかし問題は,我々が日常摂取しているリン量を正確に知る事ができない事である。リン過剰摂取の危険性は、CKD、循環器疾患および骨代謝との関係で多くの研究がなされている。このように、リンは細胞内の栄養代謝の側面からも、生体恒常性維持に重要な役割を演じている。食事面からのリン摂取量の把握は、このようなリンの役割を知る上でも重要と考えられる。

文献

  • National Kidney Foundation: K/DOQI clinical practice guidelines for bone metabolism and disease in chronic kidney disease. Am J Kidney Dis 42 [Suppl 3]: S1-S201, 2003
  • 厚生労働省、日本人の食事摂取基準 (2015版):第一出版、2014年
  • 日本腎臓学会、編、 CKDと栄養、エビデンスに基づく CKD診療ガイドライン013. 日腎会誌 2013:55:25-22. 
  • 日本腎臓学会、編、慢性腎臓病に対する食事療法基準 2014年版
  • 日本透析医学会、編、慢性透析患者の食事摂取基準、日本透析医学会誌 2014:47:287-291.
  • Shinaberger CSGreenland SKopple JD, et al: Is controlling phosphorus by decreasing dietary protein intake beneficial or harmful in persons with chronic kidney disease? Am J Clin Nutr 88: 1511-1518, 2008
  •  Kalantar-Zadeh K, Gutekunst L, Mehrotra R, et al. Understanding sources of dietary phosphorus in the treatment of patients with chronic kidney disease. Clin J Am Soc Nephrol 5: 519-530, 2010
  • Oenning LL, Vogel J, Calvo MS; Accuracy of methods estimating calcium and phosphorus intake in daily diets. J Am Diet Assoc 88: 1076-1080, 1988
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  • Sullivan C, Sayre SS, Leon JB et al: Effect of food additives on hyperphosphatemia among patients with end-stage renal disease: JAMA 301:629-635, 2009
  • Karp H, Ekholm P, Kemi V et al. Differences among total and in vitro digestible phosphorus content of plant foods and beverages. J Renal Nutrition 22, 416-422, 2012
  • Ando S, Sakuma M, Morimoto Y et al: The effect of various boiling conditions on reduction of phosphorus and protein in meat. J Renal Nutr 25, 504-509, 2015
  • Adema AY, de Borst MH, ter Wee PM et al. Dietary and pharmacological modification of fibrobrast growth factor-23 in chronic kidney disease. J Renal Nutr 2014:24:143-150

<特集31目次>

B. 食事中タンパク質制限の実践と問題点

C. 食事中カリウム制限の実践と問題点

D. 食事中ナトリウム制限の実践と問題点