特集28第3章

<特集28目次>

第1章:CKDにおける血糖コントロールの実際

第2章:CKD血糖コントロールのQ&A

第3章:CKDにおける糖尿病治療のエビデンス

1. DPP-4阻害薬の大規模臨床試験

DPP-4阻害薬の大規模RCT:最近報告されたものにサキサグリプチンのSAVOR試験とアログリプチンのEXAMINE試験がある[1,2]。両試験ともに心血管疾患既往または心血管リスクを有する2型糖尿病を対象に、DPP-4阻害薬の心血管イベントの発生率を比較した2年間の大規模無作為化二重盲検比較試験である。結果は心血管イベントの発生率や有害事象の発現率もプラセボ群(従来治療を継続する群)と同等であり、心血管イベントを増加させないことが確認された。 両試験ともCKD患者がエントリーされているのも特徴の一つである。両試験ともに、透析導入、eGFRの変化はプラセボ群と有意な差は認められなかった。

SAVOR試験 ~腎アウトカム~

  • 腎アウトカムが報告されているSAVOR試験においては、微量アルブミン尿が4426例、顕性アルブミン尿が1638例エントリーされていた。微量アルブミン尿から正常アルブミン尿へ改善した割合はサキサグリプチン群で有意に高く、微量アルブミン尿から顕性アルブミン尿へ増悪した割合はサキサグリプチン群で有意に低かった。また、HbA1cが改善した群と改善しなかった群でのアルブミン尿の変化について解析がなされたが、HbA1cの改善の有無にかかわらず、サキサグリプチン群で有意にアルブミン尿の改善が認められており、血糖降下作用から独立したものであることが示唆されている。
  • 事前に定義された腎アウトカムは血清クレアチニン値の倍化、透析導入、腎移植、死亡などであるが、サキサグリプチン群とプラセボ群に差は認めず、サキサグリプチン投与による腎機能への悪影響は少ないものと考えられる。さらに、アルブミン尿の改善効果が認められたことから、糖尿病性腎症の進展抑制につながる可能性も考えられる。

現在進行中のRCT

シタグリプチンのTECOS (Trial to Evaluate Cardiovascular Outcomes after Treatment with Sitagliptin)とリナグリプチンのCAROLINA (Cardiovascular Outcome Study of Linagliptin Versus Glimepiride in Patients with Type 2 Diabetes)の2試験が現在行われている。いずれもCKD患者がエントリーされており、その結果が期待される。

2. 保存期CKD患者と透析患者を対象にしたDPP-4阻害薬の比較試験

現在わが国では7種類のDPP-4阻害薬が臨床の場で使用可能である。それぞれの薬物により代謝・排泄経路に差があるため、腎機能に応じて用量調整を必要とするものもあるため注意を要する。経口血糖降下薬と各DPP-4阻害のGFR別の用量調整について図4に示す。

図1)経口血糖降下薬 CKDステージ別の適応

DPP-4阻害薬はその効果と安全性から、透析を含めたCKD患者にも使用しやすい特徴があり、他の糖尿病治療薬に比較してもその効果と安全性について多く報告されている(表1) [4-21]。

正常腎機能, eGFR > 90 mL/min/1.73m2; 中等度腎機能障害, 30≤ eGFR(またはCCR) < 50 mL/min/1.73m2 ; 高度腎機能障害, eGFR(またはCCR) <30 mL/min/1.73m2 ; ESKD, end-stage kidney disease (透析患者を示す); FPG, fasting plasma glucose (空腹時血糖値); GLP-1, glucagon like peptide-1; UACR, 尿中アルブミン排泄率.

糖尿病治療薬であるため、ほとんどの試験でHbA1cの変化を主要評価項目としている。保存期CKDを対象としている試験では総じてeGFRは対照薬と比較して低下は認められていない。また、尿中アルブミン排泄の低下を認め、血糖降下作用や血圧とは独立しており、DPP-4阻害薬の腎への直接的な作用を示唆する報告もみられる。

国外の報告ではインスリン治療中の患者にDPP-4阻害薬が追加される割合が多いため、わが国との現状とは差があることに留意すべきである。

透析患者においてもGAは有意な低下を認め、さらには低血糖の発症率も少ないことが特徴的である。

3.DOPPSによる最近の知見

1997年~2004年に実施されたJ-DOPPS (the Japan Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study)Ⅰ、Ⅱに登録された血液透析患者の解析で、非糖尿病透析患者に比べ、糖尿病透析患者では生存率が有意に低いことが示されている(p<0.001) [22]。さらに1,569名の糖尿病透析患者をHbA1cの値を5分位に分けて多変量で調整し、総死亡リスクを検討した結果、最もHbA1cの低い群(3.3~4.9%)と比較すると、HbA1c 7.3%以上の群で2.36倍有意に高いことが報告されている。

糖尿病透析患者の血糖コントロール指標にHbA1cを用いて生命予後との関連を比較すると、以前はHbA1c値が高いほど予後不良であるとの報告が多かった。しかし最近では、「HbA1c値が低ければ低いほど良い」というわけではなさそうである。米国からの報告では、総死亡率とHbA1c値の関係はU字現象となり、HbA1c値6~7%前後が最も死亡率が低く、それ以下でも以上でも予後が悪いことが報告されている[23]。DOPPSにおいても死亡リスクはHbA1c 7.0~7.9%が最も低く、それ以上でもそれ以下でも高いことが報告された(図5)[24]。

図5) HbA1c値別の死亡率(DOPPS)

ただし、栄養障害のない群ではHbA1c値が低値でも死亡リスクはそれほど高くならないが、栄養障害が存在すると(BMI<19, 血清アルブミン<3g/dLなど)HbA1c値が低いと死亡リスクが増加する(図6)。

図6) 栄養状態で補正後のHbA1c値別の死亡率(DOPPS)

ただし、透析患者のHbA1c値は腎性貧血やESA製剤、赤血球寿命の短縮などにより過小評価されるため[25]、血糖コントロール不良の患者もHbA1c低値群に多数含まれている可能性があるため、結果の解釈には注意を要する。

文献

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