
<目次>
第1章 CKD-MBD診療ガイドラインレビュー
第2章 カルシミメティクス
第3章 ビタミンD療法のUp-To-Date
第4章 カルシミメティクス時代の副甲状腺摘出術の意義と位置付け
要旨
長期透析が多く欧米より生命予後の良い日本の患者のためにと言うポリシーを反映して本邦CKD-MBDガイドラインの管理目標PTH値は、低めに設定されている。2008年シナカルセト塩酸塩がこの治療に参加してから日本の透析患者のPTH値は低く維持されるようになりガイドライン目標も内科的治療のみでクリアしやすい時代となった。これによりPEITはほとんど適応を失い、副甲状腺摘出術件数も2007年の1749件をピークに年々減少している。一方内科的治療で二次性副甲状腺機能の維持できない患者にはPTx施行後の予後が良好であることも多数報告されている。生命予後のためにPTxが必要となる患者は一定数居り治療が遅れ遅れになってしまわぬように観察することが必要だと考えられる。
1. 副甲状腺ホルモン(PTH)の管理目標値
(1)JSDT CKD-MBDガイドラインにおけるPTH管理目標値
「慢性腎臓病にともなう骨ミネラル代謝異常 (CKD-mineral and bone disorder: CKD-MBD)」の治療とは心血管イベントの低下、骨折率の低下、ひいては生命予後の改善を果たすことが目標となる。この目標を遵守するために日本でもガイドラインが策定されている。2006年に「透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)ガイドライン(JSDT2006)」が作成された1)。2012年には、JSDT2006の検証、2006 年末から2009 年末まで観察しえた透析患者128,125名の JSDTのデータベース、新しいエビデンス等を考慮して「慢性腎臓病にともなう骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)診療ガイドライン(JSDT2012)」が報告された2)。iPTHの管理目標はJSDT2006では我が国の慢性透析療法のデータベースを基にして生命予後をアウトカムの中心にすえP, Caを管理した上でiPTH60~180pg/mlを管理目標とした1)。JSDT2012ではJSDT2006を3年間検証した上でiPTH 180-240pg/mlで生命予後に差が認められないことを受け推奨上限値を上昇させた2)。
(2)KDIGO国際ガイドラインおよび欧米のCKD-MBDガイドライン
欧米のガイドラインでは2003年K/DOQI(Kidney Disease Outcome Quality Initiative)SHPTガイドラインでは骨形態計測骨代謝回転に基づきintact PTH(iPTH) 150-300pg/ml と言う管理目標が提唱された3)。その後PTH値による骨の予後予測は不確実で有ることが示され。生命予後に基づく管理目標が提唱されるようになった。2009年DOPPSのiPTH600pg/ml以上での総死亡リスクの上昇などを根拠にPTHの正常上限の2-9倍(iPTH では130-600程度:変化の動向で治療を考慮する)の目標がKDIGOガイドラインによって掲げられた。日本や2003年当時の米国と違いPTHのAssayの多様化を受けたとはいえ上限が高く設定されている4)。これを受けて欧米ではPTH値は、日本に比べて高く維持される様になった。KDIGOガイドライン2017年のUpdateの目標値も変わりが無い5)。欧米のガイドラインのP. Ca, PTH適正値、副甲状腺インターベンション推奨値を比較した場合P, Ca管理は米国と日本では採血のタイミングが異なることを考慮すれば5つのガイドラインとも類似した管理目標となっている。大きな差異は、PTH値のレベルである。この差は、人種間に於けるPTH感受性や透析量の違いを考慮しても日本が低い。腎移植が少なく長期透析患者の多い、また生命予後の良い我が国で高いPTH値を放置しないという考え方である(図1)。

2.内科的副甲状腺摘出術(PTx)が現実味を帯びてきた。
2009年KDIGOガイドライン後それまでの活性型ビタミンD製剤(VDRA)中心の治療からCa受容体作働薬(カルシミメティックス)中心の治療に関するエビデンスが多数報告された。シナカルセト塩酸塩が治療参加したことによって日本では500<iPTH<800pg/mlの透析患者(n=15)の48%が800pg/ml<iPTHの患者(n=5)の25%をiPTH<250pg/mlにコントロールできることが示された6)。シナカルセトを中心とするカルシミメティックスのエビデンスは他項を参照されたい。シナカルセト塩酸塩に加え2017年から日本において静注製剤のCa受容体作働薬であるエテルカルセチド塩酸塩が使用可能となった7) 。生命予後をはじめとするアウトカムへの効果は認められていないがKDIGO Updateガイドラインのエビデンスレビューに追記されることになった。エテルカルセチド塩酸塩の特徴は効果の強さと投与経路が透析回路から行われるためアドヒアランスが確実で服薬負担がないことがあげられる。2018年からは新たな経口Ca受容体作働薬としてエボカルセトが日本で開発され上市された。効果やCa受容体への結合部位は7回膜貫通部分でありシナカルセト塩酸塩とほとんど変わらない。特徴はバイオアベイラビリティが高く薬剤相互採用が少ないことでそれによりシナカルセト塩酸塩のような嘔気・嘔吐作用の頻度が低く、細かい使用調節が可能なことである 8)。
SHPTを有する透析患者では,副甲状腺はびまん性過形成から結節性過形成へと進行する。結節性過形成の存在は副甲状腺のサイズによって推定され,推定体積500 mm3以上または長径1 cm 以上の腫大腺では結節性過形成の可能性が高い.結節性過形成は増殖能が高く,2HPTが進行すると副甲状腺の腫大に伴いCa感知受容体(CaR)やビタミンD 受容体VDRの発現が減少する。結節性過形成の腫大腺を有する症例では活性型ビタミンD 製剤を中心とする内科的治療に抵抗性を示すがカルシミメティックスの治療参加により結節性過形成であっても副甲状腺腫の縮小が認められるようになった。ある程度の大きさの腫大腺を持つSHPTでのPTH低下効果も示され副甲状腺腫の縮小が示されている。副甲状腺腫内のCa受容体とKlotho をノックアウトすることで副甲状腺が腫大することも報告されている。内科的なPTxが現実味を帯びてきた。PTxは、2007年JSDT2006の影響を受けて主要106施設中77施設のアンケートで1749件まで増加したが2008年のシナカルセト塩酸塩の日本発売を受けて2014年288件まで減少した2015年303件にやや増加したがエテルカルセチド塩酸塩やエボカルセトの登場で更に減少すると考えられる9)(図1文献9改変)。では、PTxもPEITのように過去の治療になるのであろうか?

3.カルシミメティックス時代のPTx適応
JSDT2012ガイドラインの副甲状腺インターベンションの適応は以下のようにステートメントが示されている2)。
Ⅰ.内科的治療に抵抗する高度の二次性副甲状腺機能亢進症*1に対しては,PTx を推奨する(1B).
Ⅱ.腫大副甲状腺が1 腺のみで穿刺可能な部位に存在する場合,PEIT を考慮することは妥当である(グレードなし).
補足
*1 高度の二次性副甲状腺機能亢進症とは,intact PTH 500 pg/mL,あるいは whole PTH 300 pg/mL を超える場合とする.ただしこれ以下の値であっても,管理目標値を上回る高P 血症あるいは高Ca 血症が是正困難な場合,PTx の適応を検討することは妥当である.
JSDT 2006、20121, 2)ともその第4章が「副甲状腺インターベンションの適応と方法」となる。ガイドラインの表面上の違いはJSDT2012でエビデンスレベルが示されていることとJSDT2006でPTxとPEITを副甲状腺インターベンションとしてひとくくりにされていたものをJSDT2012ではPTxを推奨の中心におき1腺腫大例の選択肢としてPEITを位置づけている事である。これは2008年以降のPEIT症例の減少を受けたものである。現在ではPEITは殆ど行われなくなりメモリアルな治療となっている。両ガイドラインの真の違いは、副甲状腺インターベンションを取り巻く内科的治療の変化である。2012年と2018年現在との違いは、シナカルセト塩酸塩の治療への参加が標準治療となりあまねく使用され、更に新しいカルシミメティックスが登場していることと炭酸ランタンに加えクエン酸第二鉄やスクロオキシ水酸化鉄のリン吸着薬が使用可能になったことである。シナカルセト塩酸塩が内科的治療に加えられたことによって日本人透析患者のPTH値が引き下げられi-PTH 500 pg/mL,あるいは w-PTH 300 pg/mLを超える腎不全患者が少なくなりPTxの適応患者はたしかに少なくなった6)。しかし、欧米に比べても日本ではPTxの割合が低い10)。
内科的治療の限界が訪れてもPTxを試行しない結果血管の石灰化や心筋障害が致命的になっている場合も存在する。Lau等のレビューではVDRAとカルシミメティックス両者を用いて副甲状腺機能をコントロールして6ヶ月経過の後コントロールしきれない場合にはPTxを施行することが提案されている11)。日本においても6ヶ月とは言わないが1年以上現在の内科的治療を駆使してP, Ca, PTHのコントロールがSHPTの影響で不良と判断されたらPTxを考えるべきである。若年透析患者でSHPTが存在する場合も移植のめどがたたなければPTxの適応と考えられる。最近は保存期の長期化に伴い透析導入間もない腫大腺を有したSHPT患者も存在する。腎移植後の遷延性副甲状腺機能亢進症もPTxの良い適応であり移植腎機能も最終的には損なわない。できればカルシミメティックス使用例で腫大線が存在し移植の希望が強い場合もしくは将来設計に移植が組み込まれている場合には移植前にPTxを施行すべきである(特に日本では移植後カルシミメティックスは適応外)。経済的にもPTxが可能な場合にシナカルセト塩酸塩に勝っており、今後の透析期間の長期化が見込まれれば適応と考えられる。カルシミメティックスが透析の包括化に含まれた場合にPTxが急増すれば現代の透析医療者もゲゼルシャフトだったと後生に思われてしまう。なにより、PTxを試行したグループでは、しなかったグループに比較して明らかに生命予後が良いことが多数報告されている11)(表1)。これらは直接現在の内科的治療を駆使してPTHを低下させた患者と比較したものではないが高PTH患者にPTxを試行することは正しいことだと思われる。
最後に
現時点ではPTxとカルシミメティックスを含めた内科的治療で維持した場合とを比較したエビデンスがないため、治療選択は患者の希望や全身状態に応じて検討することが望ましい。しかし、両治療とも相対するものではなくお互いの欠点を補完しながら患者の質の良い予後をめざすものである。
文 献
1) 日本透析医学会: “透析患者における二次性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン.” 日透析医学会誌 39 (2006): 1435-1455.
2) 日本透析医学会:慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン.透析会誌 45: 301-356, 2012
3) Massry, S.G.,et al : K/DOQI Clinical practice guidelines for bone metabolism and disease in chronic kidney disease. Am J Kidney Disease 42:suppl 3 i-S201,2003
4) Kidney Disease: Improving Global Outcome (KDIGO)CKD-MBD Work Group: KDIGO Clinical Practice Guideline for the Diagnosis, Evaluation, Prevention, and Treatment of Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder (CKD-MBD).Kidney Int:76 : suppl 113 s1-130,2009
5) Kidney Disease: Improving Global Outcome (KDIGO)CKD-MBD Update Work Group: KDIGO 2017 Clinical Practice Guideline Update for the Diagnosis, Evaluation, Prevention, and Treatment of Chronic Kidney Disease-Mineral and Bone Disorder (CKD-MBD).Kidney Int: suppl 7: 1-59, 2017.
6) Fukagawa M, Komaba H, Onishi Y, Fukuhara S et al.:Mineral metabolism management in hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism in Japan:baseline data from the MBD-5D. Am J Nephrol 33:427-437, 2011
7) Block G A, Bushinsky D A; Effect of Etelcalcetide vs Cinacalcet on Serum Parathyroid Hormone in Patients Receiving Hemodialysis With Secondary Hyperparathyroidism A Randomized Clinical Trial JAMA. 317(2):156-164 2017;.
8) Fukagawa M, Shimazaki R, Akizawa T: Head-to-head efficacy and safety comparisons of a novel calcimimetic agent (evocalcet) with cinacalcet in Japanese hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism: a randomized clinical trial [Abstract] J Am So Nephrol 28: B7 2017
9) Tominaga Y, Kakuta T, Yasunaga C et al. Evaluation of parathyroidectomy for secondary and tertiary hyperparathyroidism by the parathyroid surgeons’ society of Japan. Ther Apher Dial 20: 6–11, 2016
10) Tentori F, Wang M、Bieber BA, et al.: Recent changes in therapeutic approaches and association with outcomes among patients with secondary hyperparathyroidism on chronic hemodialysis: the DOPPS study, Clin J Am Soc Nephrol 10: 98-109 2015
11) Wei Ling Lau, Yoshitsugu Obi , and Kamyar Kalantar-Zadeh Parathyroidectomy in the Management of Secondary Hyperparathyroidism Clin J Am Soc Nephrol 13: ccc–ccc, 2018