
特集29目次
第1章 CKDにおいて骨折を予知できるマーカー
第2章 CKDにおける骨折を予防する治療法
第3章 CKDにおいて心血管石灰化を調べる検査
第4章 CKDにおける血管石灰化の予防と治療法
1.はじめに
陸棲動物は、カルシウム(Ca)欠乏状態で棲息している。そのため、Ca欠乏の程度に応じて生体内のCa貯蔵臓器である骨を溶解して骨から血液中へのCa放出を促進することでCa欠乏に対応している。一方で、食生活の変化による蛋白質摂取量の増加や食品加工による添加無機リンの増大で、リン負荷増大によるビタミンD活性化抑制、Ca利尿作用などを通じた血清Ca低下による骨代謝回転促進の機序が重要となってきている。CKS stage G2までは、Ca不足による副甲状腺からのPTH(副甲状腺ホルモン:parathyroidhormone:PTH)分泌の軽度刺激や、経口リン負荷による血清FGF-23上昇がビタミンD活性化を抑制することで骨・ミネラル代謝異常が生じる。CKD G3では、血液中のリン蓄積が著明となり、PTH分泌がeGFR低下依存性に明確に亢進し、PTH依存性の骨代謝回転の亢進が起こる。PTH過剰症は皮質骨多孔症を惹起し、このPTH上昇は皮質骨が主体の大腿骨近位部骨密度を低下させ、近位部骨折の明確なリスクとなる。
2. CKD 各stageにおける骨折防止戦略
(1)CKD stage G1〜G2における治療法
現在までに日本人患者で骨折リスクがG2までに上昇することを示す報告はあるものの(文献1)、現時点では確定されているものではないと考える。我々の検討ではeGFR ≧60 mL/minでもリン負荷による血清線維芽細胞増殖因子[fibroblast growth factor (FGF)]-23上昇がeGFR低下に伴ってみられること、およびFGF-23の上昇が血清1,25(OH)2D合成の低下と有意な負の関連を示している現象を報告している(文献2)。したがって、G1〜2ステージにおいてもリン負荷が血清リン・Ca代謝異常に関与しており、ビタミンD活性化低下や腎機能障害などを通じて骨脆弱化に寄与していると考えている。この現象が直ちに骨折につながるか否かは明らかではないものの、non-CKDのヒトでも現代の飽食や加工食品中の無機リン増加の時代においては明らかに食事中リン制限が必須のものであることを示している。また日本人で多い食塩摂取過多が尿中へのCa排泄を増加させ、負のCaバランスを惹起することで骨を脆弱化させる。それによる軽度な骨ミネラル代謝異常が骨脆弱化・骨折リスク増大に関与しているのかもしれない。さらにこれらの軽度腎機能低下であっても、それに伴う酸化ストレスが骨質を劣化させる可能性も指摘されている。ただ、この段階ではリン・塩分摂取の制限やビタミンD摂取増加などの食事療法が重要となってくるものの、まだ骨粗鬆症治療薬の適応となる確率は軽度腎機能低下からの観点からのみでは少なく、これに合併した病態によって治療薬が必要となるものと考えられる。基本的には閉経後骨粗鬆症などの原発性骨粗鬆症や、ステロイド・糖尿病などの続発性骨粗鬆症の病態の併存が考えられるが、本稿ではCKDの骨折予防治療について述べるため、他を参照されたい。ステロイドについては、現時点では予防投与が保険承認されているビスホスホネート薬をプレドニン換算で5 mg/日、3ケ月以上の投与が予定されている場合には投与すべきである。治療期以降に妊娠・出産の可能性のある患者には、デノスマブの投与が有用であるかもしれない。今後の検討が待たれる。
(2)CKD stage G3-G5dにおける治療法
前述したように、eGFRが60 ml/分未満まで低下すると血清リンの蓄積とそれに伴う血清Caの低下、FGF-23の亢進による血清1,25(OH)2Dの低下で二次性副甲状腺機能亢進症が起こりPTH過剰症による高回転型骨粗鬆症が起こる(文献3)。PTH過剰症はCKD患者の骨代謝回転を規定する最重要因子である。過剰なPTHはその最も激しい型が骨喪失間隙に繊維化が生じる線維性骨炎である。PTH過剰は、特に皮質骨の骨吸収を促進し、皮質骨多孔症や最終的には皮質骨幅の著明な短縮を惹起する(文献4)。そのため、大腿骨近位部など皮質骨によって骨強度が保たれている部位が脆弱化することでこれら部位での骨折が好発する。実際、多数の報告でG3以上のCKDでは大腿骨近位部の骨折リスクは2-5倍程度となっている。したがって、CKD G3以上の腎性骨症の治療ターゲットは骨吸収を促進する血清PTHの正常化となる。実際、シナカルセトの使用開始以降でCKD 5d患者での大腿骨近位部骨折の発生率低下が示されている(文献5)。しかし、PTHの骨反応性は男性<閉経前女性<閉経後女性の順に増大し、閉経以外にも種々の病態合併によって個人差があるため、根本的には骨代謝回転自体を正常化させる必要があり、血清骨マーカーの正常化を目指す必要がある。すなわち、PTH制御のみでなく、骨粗鬆症自体に対する治療が求められる。CKD患者でも投薬可能で、骨吸収抑制の割に骨形成を抑制する程度の少ない薬剤が使用可能となってきており、最近発症率の上昇が懸念され、血管石灰化リスクでもある無形成骨の発症危険性を少なくしたうえで、骨折率を低下させることが期待されている。
3. 骨粗鬆症治療薬
殆どの骨粗鬆症治療薬は骨吸収抑制で結果的に骨代謝回転を低下させる。投与後には代謝回転低下による骨石灰化率の上昇と二次的な骨形成低下が起こる事で無形成骨の危険性が高まる。無形成骨では過剰なCa・リン吸着部位としての骨の機能が損なわれるため、血管などの異所性石灰化の危険性が増大することを銘記することが重要となる。実際、骨粗鬆症治療薬のほとんどが腎不全時には禁忌、もしくは慎重投与である(表1)。骨粗鬆症治療薬のこれら危険性を考慮しても薬剤の有用性が勝った場合にのみ使用を考慮すべきである。
骨粗鬆症治療薬ではないがリン吸着薬の投与が保存期腎不全の高リン血症患者において認められている。リン負荷低減により副甲状腺機能亢進症が緩和される事でPTH過剰症による骨代謝回転亢進が抑制され、皮質骨多孔症の発生が抑止されると考えられる。食事療法の継続とともに血清リン濃度を測定して上限を超えた場合には薬剤投与が骨折抑制の観点からも有用となる。また高リン血症を呈している患者にCa含有型リン吸着薬を投与すると、血清Caxリン積が上昇することで無形成骨や血管石灰化が惹起されることがあるので注意を要する。

a. 活性型ビタミンD
CKD G3では、ビタミンD活性化を促進する血清PTH上昇が起こるが、血清1,25(OH)2DはeGFR依存性に低下する(文献6)。したがって、G3ではビタミンD活性化障害によるビタミンD欠乏症と考えられている。ビタミンDは健康長寿ホルモンと捉えられており、またその骨折低下作用は血清Ca × リン積を上昇させる事での骨石灰化率の上昇と、直接・間接的な副甲状腺機能抑制作用による骨代謝回転抑制作用によってもたらされるため、活性型ビタミンD投与は望ましい選択となる。ただし、CKDでは腎機能低下に応じて尿中へのCa・リン排泄が低下するため、血清Ca × リン積の上昇がおこりやすく、高Ca血症や骨石灰化率上昇に伴う無形成骨・腎石灰化や腎機能低下・尿管結石・血管石灰化に十分注意して過剰投与の可能性を常に考慮して最小有効量投与を行うよう注視する必要がある。
b. ビスホスホネート
ビスホスホネートは、血液中に吸収された薬剤は骨に沈着して薬効を発揮するが、残りは未変化のまま腎臓から尿中に排泄される。そのため、CKD患者ではビスホスホネートの薬効が増強され、投与量の多いエチドロネートでは骨軟化症発症の危険性が高くなり、選択すべきでない。ビスホスホネート薬は骨形成も強力に抑制し、長期投与では無形成骨が発症する。薬剤の添付文書では、このことを反映してエチドロネート・リセドロネートは腎不全では禁忌である。アレンドロネートは、腎機能がCcr 35-60 ml/分までが慎重投与、35ml/分未満では薬剤使用は勧められないと記されている(表1)。薬剤投与に当たっては、これらを考慮して減量などで対応すると短期的に好成績を収めたとの報告も見られるが長期投与の骨生検では非常に高い確率で無形成骨を呈しており(文献7)、骨粗鬆症に伴う骨折危険性が非常に増大していると考えられる症例に厳格に限定し、期間も限定してというのが安全である。
c. 選択的女性ホルモン受容体調節薬(selective estrogen receptor modulator: SERM)
CKD患者でもPTHの骨感受性は閉経後女性で増大することが示されている。それら患者でSERMや女性ホルモン補充療法を行うとPTH反応性が低下し、骨吸収抑制されることで骨量が増加する。女性ホルモンは、乳癌・子宮癌リスク増大に加え、心血管事象を増加させる懸念がある。SERMは浸潤性乳癌や子宮がんの発症抑制の一方、骨量は増加するため使用しやすい。しかし、静脈血栓症の点では注意を要する。薬剤投与後の骨マーカー低下作用はeGFR低下で影響を受けず同等であり、また、薬剤の血液への蓄積性は示されていない。
d. デノスマブ
ヒト型モノクローナル抗体IgG2アイソタイプでヒト RANKLへの高い親和性を有する。RANK-RANKL系を阻害することで破骨細胞形成・成熟過程を抑制し、骨吸収を強力に抑制する。投与後の薬効発現が非常に早く、骨吸収が非常に強力に瞬時に抑制されるため、骨からのCa・リン放出が停止し、血中Ca・リン濃度が低下する。血清Ca低下の程度は腎機能低下に伴って著明となり低Ca血症リスクが増大する。また、線維性骨炎など高回転型で骨石灰化率の低下している患者にいきなり投与すると、急性期の低Ca血症に加えて骨へのCa・リン移行が著明となるhungry bone症候群を呈し、長期間にわたっての遷延性低Ca・リン血症が報告されおり、注意を要する。一方で投与後に血清Ca・リンの低下の見られる症例では骨吸収が有効に抑制されたことのエビデンスとなり、これら患者での骨量増加効果は著明に発現する。投与後の低Ca血症性リスクを低減するため、活性型ビタミンD投与で血清Caをあらかじめ上昇させておくことに加えて、期間を限ってビスホスホネートやSERMなどの骨吸収抑制薬を投与し骨代謝回転を下げ、石灰化率を上げておくことで、デノスマブ投与後の骨吸収の急激な低下やhungry bone症候群に伴う血清Ca低下の程度が緩和される。したがってデノスマブ投与前にこれら前処置をしておくことで、投与後の危険な低Ca血症を有効に防止できる。デノスマブは骨吸収の抑制効果に比し骨形成の抑制効果は弱めであり、無形性骨の恐れはビスホスホネートに比し少ないと考えられ、臨床的に有用と思われるが、今後の検討が待たれる。
e. テリパラチド[PTH(1-34)]
テリパラチドは、PTHの生理活性を有するN端アミノ酸34個からなるペプチドで、PTH(1-34)製剤の間歇投与で骨モデリング作用による骨形成が促進される。一般の骨粗鬆症患者への投与では腎尿細管でのCa再吸収促進により高Ca血症が出現するが、CKD患者では腎機能低下につれて血清Ca上昇は減弱すると考えられる。ただし、血管拡張作用による血圧低下が透析患者で増えることが学会で報告されている。海綿骨部の骨折抑制効果が最も強く、医療コストを考慮しない場合、脊椎骨折リスクの高い患者では第一選択薬となる。一般的に連日製剤より週一製剤のほうが骨リモデリング促進作用は弱く、皮質骨に対する悪影響が弱いと考えられる。
f. ビタミンK
骨折に対する有用性も日本でのみ報告されているが、骨量増加作用は弱く骨質改善作用による作用機序が想定されている。CKD患者での骨折リスクを有意に低下させるとの報告はない。ワーファリン投与中の患者に注意が必要となる。
g. カテプシン K阻害薬、抗スクレロスチン抗体
カテプシンK阻害薬は破骨細胞内に存在し、骨吸収に必須の酵素であるカテプシンKを特異的に阻害する薬剤である。その為、破骨細胞形成には影響せず薬剤投与後は不活性型の破骨細胞が存在することになる。その結果、骨芽細胞機能の二次的な抑制はビスホスホネートと比べて弱くなり、無形性骨の発生率が低下する。CKDでの腎機能低下で投与量の調整をする必要がなく、無形性骨の恐れも少ないことからCKD患者で有望な薬剤となると考えられている。
抗スクレロスチン抗体は骨細胞から分泌される骨芽細胞抑制因子であるスクレロスチンに対する中和抗体で、投与後は骨芽細胞による骨形成が増加する。治験データでは骨形成促進作用が強く、骨折抑制効果も強いと思われる。ただし、投与期間が長期の場合の骨力学特性の影響などまだ解決すべき問題が山積している。これらが明確になればCKDでの使用も抗体製剤であるため問題ないと考えられ、期待できる薬剤である。
文献
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